仮面や神像、民具など、従来は民族学の領域で語られていた品々をアートの文脈で展示するケ・ブランリ美術館。
国立新美術館で昨年開催された
「イメージの力」展が同じ志向でした。
本展はケ・ブランリ美術館のコレクションの中から、仮面を取り上げた企画。仮面の展示は新館が主体かと思っていましたが、予想に反して仮面の展示は本館のみです(新館では映像が紹介されています)。「アール・デコの空間で仮面を見せる」という展示手法も、本展の大きな軸になっています。
ラリックのガラスレリーフ扉がある正面玄関から左手を見ると、いきなり大型の仮面が2点。展示はマスクの制作地ごとに分類されており、1階はすべてアフリカのマスクです。
アフリカのマスク第一階段を上ると目に入るのは、パプアニューギニア・セピック川流域の「儀式の家」にかけられる超大型の仮面です。「儀式の家」は通過儀礼を受ける男たちと精霊を守ってくれる重要な場所で、仮面は大昔の女性の顔を表現しています。
殿下居間で紹介されている鼻が大きな仮面は、セピック川河口付近のもの。長い鼻は美を示すとともに、男らしさと力のシンボルでもあります。
オセアニアのマスク若宮寝室~合の間~若宮居間と続く居室では、アメリカの仮面が展示されています。トウモロコシの皮で作られたアメリカ先住民による仮面、グリーンランドの小さな木製の仮面、メキシコのカーニバルで使われる若い男性の仮面など、バラエティ豊かです。
アメリカのマスク会場最後はアジアの仮面。地理的に近い地域で使われる仮面は、どことなく私たちの身体感覚にも近く感じます。
中国・韓国・ベトナム・スリランカなどの仮面とともに、もちろん日本の仮面もあり、北側に位置するベランダ「北の間」で、能面5つと狂言面1つが展示されています。モザイクタイル貼りの床に外光が入るモダンな居室に日本の面が並ぶさまは、ちょっと不思議な印象です。
アジアのマスク企画内容を紐解くと、西洋(フランス)が集めた非西洋の文化である仮面を、非西洋の日本で紹介。しかも会場は、西洋の様式(アール・デコ)を80年前に取り入れた
東京都庭園美術館と、西洋と非西洋が入れ子になった複雑な解釈も出来そうですが、そこまで理屈にとらわれずとも、原始的な活力に満ちた仮面の美術を純粋にお楽しみいただけると思います。
なお、展覧会ではマスク(仮面)を身に着けて来館したら100円引きの企画も実施中です(医療用のマスクはNGです)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年6月5日 ]