「描かれた風景 ~絵の中を旅する~」展の後、長い休みに入っていた
静嘉堂文庫美術館。リスタートは「金銀」をテーマに、宗達・光琳・抱一と受け継がれた琳派の系譜を中心に紹介する企画です。
本展では修理されていた逸品2点のお披露目が注目。ひとつ目は俵屋宗達による国宝《源氏物語関屋・澪標図屏風》です。
宗達の国宝3点のうちのひとつで(他は《風神雷神図》と《蓮池水禽図》)、右隻が関屋、左隻が澪標。ともに源氏がかつて縁を結んだ女性と偶然再会する場面ですが、源氏をはじめ主要人物は描かれていません。
近年の研究で1631年で京都・醍醐寺三宝院に納められた事が指摘されたたため、不明な点が多い宗達の基準作としても注目されています。
以前は絵具の剥落、画面の亀裂など傷みが目立っていましたが、3年かけて慎重に修理。約400年前の作品は、こうして次代に引き継がれていきます。
展示室の奥が、国宝 俵屋宗達《源氏物語関屋・澪標図屏風》修理後初お披露目のもうひとつは、尾形光琳による重要文化財《住之江蒔絵硯箱》。光琳が私淑する本阿弥光悦の硯箱を模して作ったもので、こちらは後期から展示がはじまりました。手本になったのは、東京国立博物館が所蔵する
国宝《舟橋蒔絵硯箱》と推測されています。
波間は美しい金蒔絵。文字は銀板、黒い岩は鉛板です。修理では劣化した鉛の錆を落とすと同時に、腐食防止の処理が行われました。
ちなみに処理も現代の薬品を用いるのではなく、「煙硝三分、硫黄三分、胆礬二分、塩少、酢ニテ」という光琳関係資料「小西家文書」の記載に準じて行われています。
重要文化財 尾形光琳《住之江蒔絵硯箱》宗達から光琳へと伝わった琳派の系譜を受け継いだのが、酒井抱一です。抱一は光琳の百回忌の法要を行うとともに、光琳の作品をまとめた「光琳百図」を出版。「光琳百図」が海外に渡った事で、光琳の受容は世界的に広まりました。
目立つ銀地の屏風は、抱一による《波図屏風》。光琳の《波濤図屏風》(メトロポリタン美術館蔵)から着想したと思われ、金地に描いた光琳に対し、抱一は月光をイメージした銀地に、ダイナミックな波を表現しました。
会場には、抱一の自筆句稿である《軽挙館句藻》も展示されており、光琳の後継者である事を意識した句などが記されています。
酒井抱一の作品リニューアルを記念した展覧会という事もあって、
静嘉堂文庫美術館が誇る至宝、国宝《曜変天目(稲葉天目)》もお目見えしています。
いつもは展示室内で出る事が多い曜変天目ですが、今回はラウンジでの展示。
静嘉堂文庫美術館のラウンジは眺望が良いため、空気が澄んでいるこの時期は、眼前に瑠璃色の曜変天目、遠景に雪化粧の富士山という、超贅沢なひとときを楽しめるかもしれません。天気が良い日の午前中が狙い目です。
また自然光で見る曜変天目は、いつもと違う表情を見せます。展示照明の下では青味が強く感じられますが、西日に照らされるとピンク色の輝きも見えるとの事。こちらを狙うなら、午後の来館がお勧めです。
国宝《曜変天目(稲葉天目)》も展示本展の後は、15年ぶりの多数公開となる煎茶器と、茶道具をあわせて展示する「茶の湯の美、煎茶の美」(1/23~3/21)、運慶作と推測される《木造十二神将立像》のうち修理を追えた4駆を披露する「よみがえる仏の美~修理完成披露によせて~」(4/23~6/5)と、注目展が続く
静嘉堂文庫美術館。随時このコーナーでもご紹介したいと思います。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年11月27日 ]