現在では美術品として扱われる浮世絵ですが、もともとは大衆の中にあった文化。歌舞伎役者、花魁、歴史上のヒーロー、空想を交えたエンターテイメントなどをわずか「そば1杯」という安価で販売し、庶民に親しまれました。
会場に入るとイメージカラーは緑とピンク、横文字のルビがふられた章構成と、美術展としては異例のポップなイメージですが、実はこの世界観こそ浮世絵の本質。トレンドを読み、表現力を駆使して、消費者の欲求に応えていった両者の名品が紹介されています。
会場入口から作品は充実した日本美術コレクションで知られる、ボストン美術館の所蔵品。同館は国芳・国貞の浮世絵も14,000枚以上所蔵しており、本展には厳選した名品が来日しました。美術館の規定で、一度貸し出されると5年間は公開できなくなる事も考えると、とても貴重な展覧会といえます。
色合いも含めて、かなり派手な作品が目につく本展。通常の浮世絵の展覧会は、サイズの関係もあってやや寂しく感じる事もありますが、今回は二枚続・三枚続などの大型作品が多い事もあり、会場全体がかなりの迫力です。
「一幕目」は、一から五まで「ツートップ」として紹介されている国芳と国貞ですが、当時は歌川国貞が断トツの一番人気。豊国門下でも早々と頭角を現し、役者似顔絵が大ヒット。美人画でも人気を博して、歌川一門の大名跡「豊国」を継いでいます。
逆に国芳は、近年はとても人気を集めていますが、デビュー当時は不遇。水滸伝ブームに乗るかたちで30歳を過ぎた頃から武者絵が評判になり、徐々に頭角を現しました。
後年に両者は肩を並べ、「東海道五十三次」で知られる歌川広重とともに「豊国にかほ(似顔=人物画) 国芳むしや(武者) 広重めいしよ(名所)」と称されるようになっています。
「二幕目」は、一から八まで会場は「一幕目」と「二幕目」に分かれ、それぞれ5つと8つの小さな章で構成。ここでは二幕目の六「今様江戸女子姿」(エドガールズ・コレクション)をご紹介しましょう。
役者と遊女を描いた浮世絵が禁令によって出版できなくなると、代わって登場したのが町家の娘を題材にした作品。小粋な持ち物やチャーミングな仕草の女性像は、現代なら「一流カメラマンによる読モ(読者モデル)のスナップ」といえるでしょうか。
二幕目の六 今様江戸女子姿イメージソングはB'z松本孝弘の書き下ろし、公式サイトも凝っており、グッズも充実。会場(
Bunkamura ザ・ミュージアム)が渋谷という事も含め、いかにも若い人に刺さりそうな展覧会ですが、春画展なども含めて浮世絵への関心が高まる中、こういったテイストで新たなファンを開拓する試みはとても嬉しく思います。
東京展は6月5日まで。続いて神戸、名古屋に巡回します(
会場と会期の詳細はこちらです)
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年3月18日 ]■俺たちの国芳 わたしの国貞 に関するツイート