かな文字が生まれ、和歌が発達すると、絵画の世界も和歌との関連性が強い作品が見られるようになります。
展覧会では和歌と関わりが深い絵画を紹介。会場に入ると、絵画作品の前のガラス面に、絵画と関連がある和歌が示されています。
吉野の桜、龍田川の紅葉(楓)の対比が鮮やかな《吉野龍田図屏風》。画面を覆いつくす桜と紅葉に目を奪われてしまいますが、良く見ると和歌が記された短冊が画中に描かれています。
会場尾形光琳による国宝《燕子花図屏風》。人物や風景は一切なく、金地の背景の他に描かれているのは燕子花のみですが、モチーフは伊勢物語の第九段「東下り」の一節と思われます。
東国へ下る男の一行が、三河の国の八橋で美しいカキツバタを見て、カキツバタの五文字を入れて詠んだ歌が「から衣 着つつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」。(着慣れた衣のように)慣れ親しんだ妻が都にいるのに、はるばる遠くまで来た旅を侘しく思う、という意味です。
国宝《燕子花図屏風》尾形光琳筆本展では、その「伊勢物語」を描いた個人蔵の絵巻も特別に出展されています。室町時代に描かれた作品で、全125段の本文と、40段分の絵で構成。もちろん八橋の部分も展示されており、歌を詠む男たちの先には、ちゃんと8本の橋と、カキツバタも描かれています。
絵巻の絵は素朴ですが、なかなか魅力的。草むらに隠れた男女に追手が迫る12段「武蔵野」、なかなか会えない女と会ったのに夜明けの鶏が鳴く53段「あひがたき女」、滝の見物からままならぬ世を嘆く歌を詠みあう87段「布引の滝」など、お楽しみください。
《伊勢物語絵巻》根津美術館の公式サイトによると、庭園のカキツバタの開花も進んでいるとの事(4月23日の更新情報)。今なら国宝とセットで、お楽しみいただけそうです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年4月12日 ]■燕子花図屏風 歌をまとう絵の系譜 に関するツイート