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    レポート
    文人として生きる ─ 浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術
    千葉市美術館 | 千葉県
    父子の歩みを俯瞰
    日本人の文人画家では、最高峰の一人と称される浦上玉堂(1745-1820)。指定文化財も多く、現在は高い評価が定まっていますが、実は現役の頃は息子の春琴の方がずっと売れっ子でした。玉堂と長男の春琴、そして次男の秋琴にスポットを当てた展覧会が、千葉市美術館で開催中です。
    (左から)重要文化財 浦上玉堂《一晴一雨図》個人蔵 / 重要美術品 浦上玉堂《寒林間處図》個人蔵 / 浦上玉堂《山高水長図》岡山県立美術館
    浦上玉堂製《七絃琴》正宗文庫
    (左から)浦上玉堂《止松濤館七絶》野﨑家塩業歴史館 / 浦上玉堂《山水図(扇面形)》個人蔵 / 浦上玉堂《南村訪雪図》岡山県立博物館
    (左から)浦上玉堂《山溪独行図(画帖『山光鳥語帖』)》個人蔵 / 浦上玉堂《山中閑居図》個人蔵
    (左から)浦上玉堂《煙波釣徒図》個人蔵 / 浦上玉堂《白雲半断図》個人蔵 / 浦上玉堂《晴夏晩雲図》個人蔵
    浦上春琴《春秋山水図屏風》ミネアポリス美術館(バークコレクション)
    (左から)浦上春琴《秋林隠士図》早稲田大学會津八一記念博物館 / 浦上春琴《養老観瀑図》個人蔵 / 浦上春琴《富嶽追想図》個人蔵
    浦上春琴《魚蝦果蔬巻》個人蔵
    (左から)浦上秋琴《山水図》正宗文庫 / 浦上秋琴《山水図(春渓捕魚図・秋渓独釣図)》野﨑家塩業歴史館 / 浦上秋琴《山水図》個人蔵
    ちょうど10年前の2006年にも浦上玉堂展を開催した千葉市美術館。その時は玉堂のみを特集しましたが、今回は二人の息子にもスポットを当てて、父子の歩みを俯瞰していきます。

    岡山・鴨方藩では高位の武士だった浦上玉堂。血筋は武内宿禰(天皇に仕えた伝説的な忠臣)や紀貫之(古今和歌集の選者の一人)らにも繋がると自負しており、毛並みの良さは浦上父子のアイデンティティでもありました。

    母と妻を亡くし、娘も嫁いで身軽になった玉堂。エリート階級を捨て、念願だった文人として生きる事を決意します。春琴(16歳)と秋琴(10歳)という二人の息子を連れて50歳で脱藩出奔と、思い切った行動に出ました。


    第1章「玉堂の家系と家族」

    会場最初のフロアは、大部分が玉堂の作品。玉堂が本格的に画業に取り組んだのは40歳頃で、おそらく独学と思われます。七絃琴の演奏・作曲・造琴を手掛け、薬学や医学にも関心を示していました。

    脱藩した父子三人は、諸国を遍歴。玉堂は職業画人である事を嫌う根っからの文人気質で、上手くなろうともせず、好きな山水画だけを心の赴くままに描きました。

    小さな作品が多い玉堂の書画ですが、中には畳一畳ほどの大作も。縦の画面に円・四角・扇型などの枠を描き、その中に画や詩を描く珍しい作例もあります。


    第2章「玉堂」

    続いて長男・春琴の作品。春琴の作品は数多く残っていますが、これほどの数がまとまって展示される機会はあまりありません。

    脱藩した父とともに全国を遊歴した春琴は、父とは違って頼まれたものを何でも描くプロの画家。ただ、文人としての意識は高く、中国趣味を好みました。

    幼い頃から父の英才教育を受けた事もあってか、確かな画力を持っていた春琴。真面目な性格で着実に技術を身に着け、洗練された表現は父を遥かに凌ぐ人気でした。

    本展には、ミネアポリス美術館から屏風の大作も出品。大画面ながら細部まで丁寧に描きこまれた力作です。


    第3章「春琴」

    次男の秋琴も父と一緒に出奔しましたが、脱藩の翌年に訪れた会津藩に召し抱えられる事になります。父や兄と同様に詩画も嗜みますが、音楽面での活動が目立つようになった事もあり、作品はあまり多くありません。若い頃の作品と、隠居した後の山水画などが紹介されています。

    展覧会の最後は、著名人が収集した玉堂作品を紹介。前述したように当時の評価は、玉堂よりも春琴の方がずっと上。玉堂に注目していたのは、田能村竹田などごく僅かでした。

    玉堂の評価が高まったのは、大正時代以降。美術において個性が重視される流れの中で、玉堂の独創性に光が当たったのです。橋本関雪などの日本画家、大原孫三郎や木村定三などのコレクター、そして国宝《東雲篩雪図》を愛蔵した川端康成など、多くの人が玉堂に魅せられました。


    第4章「秋琴」、第5章「玉堂を見つめる」

    残念ながら、相対的に春琴への関心は薄くなりましたが、もっと注目されて良いテクニシャン。特に魚を描いた作品が目を引きました。本展を機に、再び浦上春琴を見直す気運も高まりそうです。

    12月4日(日)までの前期と12月6日(火)からの後期で、多くの作品が展示替えされます。国宝《東雲篩雪図》は11月22日(火)~11月27日(日)のみの展示ですが、リピーター割引も設定されています。
    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年11月17日 ]

    浦上玉堂浦上玉堂

    佐藤 康宏 (著)

    新潮社
    ¥ 1,296


    ■文人として生きる 浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術 に関するツイート


     
    会場
    会期
    2016年11月10日(木)~12月18日(日)
    会期終了
    開館時間
    午前10時-午後6時 (入場は午後5時30分まで)
    金曜日・土曜日は午後8時まで (入場は午後7時30分まで)
    休館日
    11月21日(月)、11月28日(月)、12月5日(月)
    住所
    千葉県千葉市中央区中央3-10-8
    電話 043-221-2311
    公式サイト http://www.ccma-net.jp/exhibition_end/2016/1110/1110.html
    料金
    一般   1,200円(960円)
    大学生  700円(560円)
    小・中学生、高校生無料

    ※( )内は前売券、団体20名以上、千葉市内在住65歳以上の方の料金
    ※障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料
    展覧会詳細 文人として生きる ─ 浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術 詳細情報
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