数多くの三井家伝来の品々を所蔵し、国宝・重要文化財に指定されている逸品も多い
三井記念美術館。今回展示される「旧金剛宗家伝来能面」54面も、平成20年度に国の重要文化財として一括指定されたものです。
金剛流は歴史ある流派のひとつですが、宗家二十三世の金剛右京氏は跡継ぎがいなかったため、亡くなる前年の昭和10年に三井家に能面を譲渡しました。面は三井家の御蔵に秘蔵されていましたが、昭和59年に三井文庫に寄贈されたことを機に、展覧会で公開されるようになりました。
能面は大きく分けると「翁(おきな)」「尉(じょう)」「鬼神」「男」「女」の5種類に分類されます。本展では「神々」として翁面・尉面・鬼神面を、「幽玄」で男面と女面を紹介します。
豪快な表情が多いのは、鬼神面。目が金色で彩られているのは、この世のものでは無いことを示しています。口を閉じている「癋見(べしみ)と」、開いている「飛出(とびで)」は、金剛力士像と同様に阿吽(あうん)で一対です。中には、着けて舞うと面が顔から外れなくなり、無理に取ると血痕が残ったという「肉付き面伝説」をもつ面もありました。
筆者イチオシは、女面「孫次郎(オモカゲ)」。古くから名高い女面の白眉で、若くして亡くなった妻の面影を面に写したという伝承が、その名の由来になっています。下から見ると遠くを見つめるような表情に、上から見るとやや吊り目になって妖艶な表情に見える、不思議な美しさを秘めた面です。
展示室1では囃子の楽器と謡本、展示室2では見事な蒔絵の面箱も紹介。最後の展示室7で展示している能装束も、新年にふさわしく竜の柄の装束も揃えました。また、開館5周年記念事業として所蔵する能面を紹介する映像も完成し、映像ギャラリーで上映しています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年11月22日 ]