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    レポート
    松井冬子展 ―世界中の子と友達になれる―
    横浜美術館 | 神奈川県
    美貌に潜む狂気
    鶏をわしづかみにする黒髪の幽霊、裂けた腹から内臓を見せる美女…描くのは、東京藝術大学日本画科で女性初の博士号を取得した美しき日本画家、松井冬子さん。公立美術館では初めてとなる個展が、横浜美術館で開催中です。
    第2章「幽霊」。右の「夜盲症」(平成17年)で大きな注目を集めました。
    第8章「ナルシシズム」
    第4章「部位」。屠殺された仔牛の綿密なスケッチと、切り裂かれた腹から臓物を出す美少女。
    《世界中の子と友達になれる》 2002年(平成14) 絹本着色、裏箔、紙 181.8×227.8cm 作家蔵(横浜美術館寄託)
    「世界中の子と友達になれる」の下図。様々な構成案が見て取れます。左下の1点にはメモ書きがビッシリ。
    第5章「腑分」(ふわけ)。腑分とは、江戸時代に行われた人体解剖のこと。松井さんは「臓物を描くことは真実を見つめること」だと言います。
    第9章「彼方」
    第7章「九相図」。左3点が新作。死した全裸の美女に、蛆がたかり、蛇に食され、最後は骨だけになる。
    松井冬子 (撮影:中川真人)
    その美貌とは裏腹の強烈な印象の絵画で、数々のメディアでも紹介されている松井冬子さん。今、最も注目を集めている日本人画家の一人といえるでしょう。


    第2章「幽霊」

    展覧会のサブタイトルでもある「世界中の子と友達になれる」は、松井さんの幼少期の経験に由来します。

    静岡県森町で育った松井さん。小さな町の小学校では次々に友達が増え「いずれ世界中の子どもと友達になれる」と強く確信していました。

    もちろん、成長してからはそれが不可能であると気づきますが、「世界中の子と友達になれる」という言葉は、妄想と狂気が入り混じったキーワードとして、松井さんの中に強く残ったのです。

    展覧会メインビジュアルの作品名も「世界中の子と友達になれる」。空っぽの揺り籠、藤棚状に連なる無数のスズメバチ、可憐な少女は下着姿で、手足からは出血…。松井さんの大学の学部卒業制作作品で、この作品の後、まとまった制作が1年間できなかったという力作です。

    会場には完成作に至る前の下図も展示されており、「全体的にワントーン暗めの藤色を使う」「顔・肌だけは失敗できない 一発ギメ」などのメモ書きが読み取れます。


    第6章「鏡面」


    第8章「ナルシシズム」

    会場構成は「受動と自殺」「幽霊」「世界中の子と友達になれる」「部位」「腑分」「鏡面」「九相図」「ナルシシズム」「彼方」の9章。今回の新作は4点ですが、うち3点は「九相図」(くそうず)の章の作品です。

    九相図とは、人間が死んだ後に、死体が腐乱し、骨になるまでのさまを9つの段階に分けて描いた絵画です。仏教において、出家者が肉体への執着を断つトレーニングとして作られたもので、日本にも鎌倉時代以降の作品が数多く残っています。

    松井さんによる九相図も壮絶です。裂かれた腹の中の子宮を見せ付けて横たわっていた女性が、新作では蛆に蝕まれ、骨には蛇が巻きつき、荒涼とした地に最後に残るのは頭骨と背骨のみ。胸が締め付けられるような寂寥感が漂います。

    「身体も感覚も私自身のものとして実感し共有できる女(雌)しか描かない」(展覧会図録より)という松井冬子さん。悪夢に出てきそうな作品の数々も、横浜美術館の広報ご担当の女性に聞くと「女性として共感できる」との答えでした。

    若い人を中心に多くのファンを持つ松井さん。実は、女性のほうが松井さんの意図を理解しやすいのかもしれません。男である筆者は、ちょっと羨ましく思ったりします。
    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年12月17日 ]

    松井冬子 一 MATSUI FUYUKO I

    松井冬子 (著)

    河出書房新社
    ¥ 5,250

     
    会場
    会期
    2011年12月17日(土)~2012年3月18日(日)
    会期終了
    開館時間
    10:00~18:00
    (入館は閉館の30分前まで)
    休館日
    木曜日、年末年始
    ※木曜日に祝日開館した場合はその翌日。
    住所
    神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
    電話 045-221-0300
    公式サイト http://www.yaf.or.jp/yma/
    展覧会詳細 松井冬子展 ―世界中の子と友達になれる― 詳細情報
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