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    レポート
    吉村芳生 超絶技巧を超えて
    東京ステーションギャラリー | 東京都
    遅咲きの現代美術家
    リアルな表現と、独特の制作方法。吉村芳生(1950-2013)は2007年に森美術館で行われた「六本木クロッシング」展で、57歳にして一躍注目を集めるようになった現代美術家です。光が当たり始めた矢先の2013年に死去した吉村の大回顧展が、東京ステーションギャラリーで開催中です。
    《新聞と自画像》2009年
    《ドローイング 金網》1977
    《365日の自画像 1981.7.24-1982.7.23》1981-90
    《友達シリーズ》1981
    (左から)《A PARKING SCENE No.26》1979 / 《A PARKING SCENE No.26(A)》1979 / 《A STREET SCENE No.26》1978 / 《ジーンズ》1983
    (左から)《徳地・冬の幻影》1987 / 《SCENE》1983
    (左から)《無数の輝く生命に捧ぐ》2011-13 / 《バンダ》2007
    《未知なる世界からの視点》2010
    (左から)《新聞と自画像 2008.6.15 中国新聞》2008 / 《新聞と自画像 2008.9.17 日本経済新聞》2008
    日本の現代アートシーンの中でも異色の存在といえる吉村芳生。本展は、中国・四国以外の美術館では初めて開催される個展です。

    吉村は山口県防府市生まれ。広告デザイナーとして働いた後、勤めを辞めて版画を学び、美術家の道へ進みます。

    会場冒頭には、全長17メートルに及ぶ金網のドローイング。初個展の作品です。見慣れたモチーフを忠実に写し取る行為は、吉村が生涯を通じて取り組む事となります。

    吉村は、その制作手法も独特です。《ジーンズ》は、撮影したジーンズを拡大し、マス目を引いて濃淡別に0~9に分け、「2なら斜線3本」というルールに則って、黙々とマス目を埋めて描きました。

    感情を完全に排除し、機械的に制作を進める事を、「機械文明が人間から奪ってしまった感覚を再び自らの手に取り戻す作業」と語っています。



    下のフロアに下りると、イメージは一変。コスモス、バラ、ケシ、フジなど、色鉛筆で花を鮮やかに描いた作品が並びます。

    1985年に郷里の山口に移住して以降、モノクロ表現に息詰まった吉村。新たな題材になったのが花で、120色の色鉛筆を駆使して、精緻な花を描きました。ただ、花の作品も、マス目ごとに写真から拡大・転写する手法を取っています。

    菜の花を描いた《未知なる世界からの視点》は、全長10m22cmの大作。川面に写る花を描いた上で、上下をさかさまにして完成としました。

    会場最後が「自画像の森」。吉村にとって自画像はライフワークともいえる画題で、図録では「世界で最もたくさん自画像を描いた画家」と紹介されています。

    《新聞と自画像》シリーズは2パターンあり、大きな作品は約2.7倍に拡大された新聞そのもの(文字・写真・広告など)も手描き。もうひとつは既存の新聞の上に自画像を描くパターンです。

    2009年の元旦から1年間は、新聞(全国紙・地方紙・英字新聞など)を近所のコンビニで毎日購入。364枚で1セットの作品です(1月2日は新聞休刊日)。自画像はカメラで顔を撮影して描き写しています。表情は新聞の内容と連動しており、時おり表情が緩んでいる時もあります。

    一転して硬い表情は、1年間のパリ滞在中に描かれた、2011年12月からの自画像。ホームシックで部屋に閉じこもることが多かったそうで、心境が伺えます。こちらは写真は用いず、鏡を見て描いています。

    展覧会サブタイトルが「超絶技法を超えて」とあるように、‘リアルな描写’だけではない吉村の作品。モチーフは穏やかですが、異様な執念が滲み出ているような迫力です。

    東京ステーションギャラリーを皮切りに広島・京都・長野と巡回します。会場と会期はこちらです。

    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年11月22日 ]

    超絶技巧 美術館超絶技巧 美術館

    山下裕二(監修),美術手帖編集部(編集)

    美術出版社
    ¥ 1,944

     
    会場
    会期
    2018年11月23日(金)~2019年1月20日(日)
    会期終了
    開館時間
    10:00~18:00
    ※金曜日は20:00まで
    ※入館は閉館の30分前まで
    休館日
    月曜日(祝日の場合その翌日)
    住所
    東京都千代田区丸の内1-9-1 JR東京駅 丸の内北口 改札前
    電話 03-3212-2485
    公式サイト http://www.ejrcf.or.jp/gallery/
    料金
    一般 900(700)円 / 高校・大学生 700(500)円 / 中学生以下無料

    ※ ( )内は前売料金
    ※ 20名以上の団体は一般 800円 / 高校・大学生 600円
    ※ 障がい者手帳等をご持参の方は100円引き および介助者原則1名は無料
    展覧会詳細 吉村芳生 超絶技巧を超えて 詳細情報
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