染付のルーツは中国ですが、展覧会は1世紀の東地中海のうつわから。藍色と白色ガラスによるマーブル模様、青色ガラスで作られた香油瓶など、青はオリエントで広く愛された色です。
中国では染付を「青花」と呼びます。宮廷用の窯、官窯があった景徳鎮で、元・明・清時代に最高峰の青花磁器が作られました。不思議な形の燭台《青花牡丹唐草文八角燭台》は、イスラム圏の金属製燭台がモデル。西アジア向けの輸出品が作られていた事がわかります。
景徳鎮の青花磁器には、興味深い作例も。《青花瓜文鉢》には色の滲みがみられますが、実はわざと滲んだように描いています。技術的に滲みが避けられなかった明時代の文様を、あえて清時代に再現する事で、歴史を受け継いでいる事を示しています。
中国の影響を受け、朝鮮やベトナムでも青花が生まれました。ただその表現は、原料(土やコバルト顔料)、風土、文化の違いにより、中国の青花とは違いが見られます。
日本の染付といえば、伊万里。江戸時代には浮世絵に描かれるなど庶民にも広まり、さまざまなかたちの染付がつくられました。《染付草花文樽形瓶》は、木製の樽のかたちを細部まで写しています。
染付の中には、青一色ではないものもあります。染付の青に濃緑と紅を加えた、鍋島藩窯の《色絵更紗文皿》は遠くで見ると、実際には使われていない紫色が浮かんでくるよう。まるでスーラの絵画のようです。
日本や中国で作られた染付は欧州へ輸出され、それらを写したうつわが現地でつくられるなど、欧州の陶磁器文化にも強い影響を与えています。
輸出向けの青花磁器の中には、奇妙な図柄も。《青花西洋人物文筒形花瓶》には、蝙蝠(こうもり)が描かれています。中国では吉祥の文様ですが、西洋では忌み嫌われている事を知らなかったのでしょうか。
会場の最後には、5点の皿が並びます。シリアが2点、イランが2点、そしてドイツの皿。時代も材質も異なりますが、同心円状の文様、青で描かれた植物と、共通性があります。現在は政治的・宗教的に分断されている地域ですが、同じようなうつわを愛している歴史があるのです。
展覧会の後には、美術館奥の「陶片室」の見学もお忘れなく。日本各地・アジア諸地域の古陶磁片が展示されている陶片室には、もちろん染付の陶片もあります。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年1月30日 ]