展覧会名の「エステ」は、近代日本において「美学」と訳されました。今では「エステ」と言えば全身美容術をイメージしますが、そもそもは感性学を意味する「エステティカ(Aesthetica)」という学問に由来します。
1つ目のテーマは「光」。今回のメインビジュアルにもなっている写真はコレクション中最大級のサイズで縦218cm、横273cm。写真としては珍しく、ワイヤーで4点から吊るスタイルで展示されています。廃墟に灯る多くの光が儚くも幻想的です
廃墟に灯る光源は、作家自身がペンライトなどで灯した明かりを長時間露光で撮影2つ目のテーマ「反映」では、水面やガラスなどに映ったものを撮影した写真が並びます。本栖湖に富士山が映る古い写真、どこかで見覚えが…実はこちらは旧5000円札と現1,000円札の裏に描かれた富士山の絵の元になった作品です。
element02/反映続く3つ目のテーマは「表層」。アンセル・アダムス、エドワード・ウェストン、森山大道など、被写体の質感がしっかり伝わるような写真がずらり。なんとも言えない迫力があります。
またここでは、明治初期に外国人向けに日本を紹介するガイドブックとして撮られた彩色写真「玉村写真館蒔絵アルバム」も見ることができます。
会場のタブレットで見ることができます4つ目のテーマ「喪失感」では廃墟の写真やエンクレーヴィング、そしてボルタンスキーの24枚組の作品が展示されます。ボルタンスキーの《シャス高等学校》は今回この展示を企画した際に、石田さんが是非にと購入に至った作品。1931年のユダヤ人高等学校の卒業写真で、24名の卒業生それぞれの顔が拡大されています。彼らのその後は、1名を除いて分かっていません。
写真の配置は学芸員の石田さんの手によるもの。卒業写真そのものの並びを参考にしてあります。最後のテーマ「参照」では、古い作品を参照、再生して作られた作品が並びます。実は前述のボルタンスキーの作品で終わる構成も考えていたそうですが、未来への展開を示唆する明るい終わりにしようと構成が変更されたそうです。
約29,000点の膨大なコレクションから、ベスト版的なセレクトになりました、と石田さん。古写真から近年の作品まで、広くその美しさを堪能できます。
コレクション展は秋まで続く3期の連続展。残り2期、担当者それぞれの「エステ」の解釈が今から待ち遠しく感じられる展覧会でした。
会期中は第2・第4金曜日14時から、担当学芸員の石田さんによる展示解説が開催されます。
[ 取材・撮影・文:川田千沙 / 2013年5月15日 ]