福岡市美術館で昨年夏に開かれた本展。大阪展を経て、関東に巡回してきました。
展示作品は京都出身の日本画家で、風俗研究家でもあった吉川観方(よしかわかんぽう 1894~1979)の幽霊・妖怪画コレクションが中心。夏の妖怪展は「どことなくユニークな姿も…」という構成が定番ですが、本展では‘ユニーク’は控えめ。本格的な恐ろしい作品が次々に登場します。
展覧会のプロローグは「笑う骸骨」から。「笑う」とあっても油断は禁物。美しい女性が亡くなって朽ちていく長沢廬雪の《九相図》は、生前の女性が魅力的なだけに、強烈な破壊力です。
長沢廬雪《九相図》は、強烈なインパクト第1章「幽霊画の世界」には、掛け軸がずらりと並びます。幽霊はそのプロポーション(?)から、縦長の掛け軸との相性はピッタリですが、これほどの数の幽霊画の掛け軸が揃った展示は、恐らくかなり珍しいはず。なかなか壮観です。
単独の幽霊画を完成させた「幽霊画の祖」ともいえる円山応挙筆と伝わる作品をはじめ、渓斎英泉、谷文晁、そして幽霊・妖怪画のスペシャリストである河鍋暁斎など、ビッグネームが目白押し。幽霊の絵はとても人気がある題材だったのです。
第1章「幽霊画の世界」は、掛け軸が壮観第2章「妖怪画の世界」に進むと、恐ろしさという点では若干和らぐかもしれません。どことなくホッとする作品も並びます。
中でもこちらの《付喪神図》はユニーク。茶碗、茶釜、燭台、琴、琵琶などが妖怪になった絵で、海外の絵本にでも出てきそうなタッチですが、何と作者は伊藤若冲。「奇想の画家」はこんな絵も描いていたのです。
伊藤若冲《付喪神図》展覧会の最後は、本展の出品作をコレクションしていた吉川観方自身の作品です。
向かって右幅が朝化粧をするお岩、左幅が蚊遣火の中から現れたお菊。下絵も一緒に紹介されてるこの作品は、昭和23年、戦後間もない時期に描かれました。
恐ろしさの中に微かに漂う、生前の色気。図録で「日本の幽霊画の到達点を示す傑作」と評されていますが、まさに同感です。
吉川観方《朝露・夕霧》恐ろしい作品はもちろんですが、じっくり読んでいただきたいのが、
福岡市美術館の中山喜一朗氏による作品説明のキャプション類です。
明治の近代化で幽霊画は下火になりましたが「しかし幽霊は死んだわけではありません。もともと死んでいるわけですし」。珍しい扇面の幽霊画に「これでおあぐと、涼しいかもしれない」と、幽霊への深い愛情に溢れたコメントは、個人的にツボに入りました。
この夏に開催される三つの妖怪展(本展、
三井記念美術館「大妖怪展」、
横須賀美術館「日本の「妖怪」を追え!」)では、半券持参で相互割引を実施しています。ぜひ比べてお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年8月5日 ]