毎年、春と秋に特別展が開かれる
金沢文庫。収蔵する重要文化財《称名寺聖教》には東大寺の鎌倉再建に関する資料も多く含まれるなど、東大寺とは浅からぬ縁があります。
東大寺から数多くの逸品が出展されることもあり、ネットでも話題を呼んでいる本展。会場は3部構成です。
まず第1部は「東大寺の鎌倉再建」。南都焼討後の再建はもとより、鎌倉時代中期・後期も含めて焦点を当て、この時代に行われた東大寺の再建事業を展観します。
会場展覧会最大の目玉は、国宝《重源上人坐像》。重源(ちょうげん)は東大寺の鎌倉再建に尽力した高僧で、本像は大仏殿東方の俊乗堂に安置されています。
高さは81.8センチと、原寸に近い大きさ。作者は確定されていないものの、運慶工房によることはほぼ確実です。
やや前方に出た頭部に、威厳のある表情。老身の痩躯ながら、間近で見ると圧倒されるような力強さを感じます。わが国の肖像彫刻史上最高傑作のひとつにあげられる傑作です。
国宝《重源上人坐像》重要文化財《四天王立像》は、東大寺戒壇院千手堂の本尊(厨子入千手観音立像)の脇侍。それぞれ50センチ程の大きさですが、彩色も残る美しい4体です。
《地蔵菩薩立像》も重要文化財。こちらは快慶の円熟期の作品で、美しい衣の表現と慈悲深い表情が印象的です。
重要文化財《四天王立像》と、重要文化財《地蔵菩薩立像》第2部は「華厳の世界」。東大寺は仏教の諸分野を学ぶ「八宗兼学」を謳いますが、大仏は華厳経の教主である盧舎那仏であるなど、華厳学は中心的な存在です。
ここでは、華厳学の興隆を紹介。華厳経にみえる善財童子の物語をかわいらしく描いた国宝の絵巻や、金泥・銀泥で書かれた美しい華厳経の経典などが展示されています。
第2部「華厳の世界」第3部は「東大寺の学問」。日本各地から学僧が集っていた東大寺。多くの書籍がその学問の隆盛を伝えています。
こちらでは、学僧による数多くの著作が展示されました。
こちらは全て凝然(ぎょうねん)の著作。中には仏教儀礼で用いられる声明譜(楽譜)なども取材に訪れたのは平日ですが、多くの来館者で賑わっていた
金沢文庫。特に国宝《重源上人坐像》は人気が高く、ガラスケースの中とはいえかなり近づいて見ることができるため、食い入るように見入っていたお客様の姿が印象的でした。
なお、会期中一部の資料は展示替えされます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年10月22日 ]