ジョセフ・クーデルカさんは1938年、チェコスロヴァキア生まれ。60年代初頭から写真を発表し、亡命後はイギリス、後にフランスを拠点に活躍。詩的でありながら独特の強さを持つその作品は、世界中で高い評価を得ています。
東京国立近代美術館では以前にもクーデルカさんの作品を紹介したことがありますが、本格的な回顧展はアジアでも初めて。初期から最新作まで、その歩みを辿っていきます。
会場冒頭から展覧会は7章構成。会場構成もクーデルカさん自身が担当しました。
1章「初期作品」
2章「実験」
3章「劇場」
4章「ジプシーズ」
5章「侵攻」
6章「エグザイルズ」
7章「カオス」
クーデルカさんの作品の中で最も写実性が高く、かつ一般に知られているのが5章「侵攻」です。
チェコスロヴァキアにおれる政治改革運動「プラハの春」に対し、1968年8月、ワルシャワ条約機構軍が軍事介入。冷戦のさなかに起きた歴史的な大事件でした。
クーデルカさんが撮影した写真は、侵攻の1年後に「匿名のチェコ写真家」の作品として発表。1969年度のロバートキャパ賞を受賞しました。
5章「侵攻」展覧会後半では、亡命後の作品も紹介されます。最終章の「カオス」は、産業化によって荒廃した土地、地中海沿岸の古代ローマ遺跡群などをパノラマ・カメラで捉えました。
特筆しておきたいのが、展覧会にあわせて制作されたクオリティの高い図録(2,200円)。豊富な写真は言うまでもありませんが、クーデルカさんへのインタビューが必見です。
「私は流儀を変えたくなかった。そして生き延びようともがくことにも意義があるとも考えていた」「才能のある人たちのある者たちは、それが売り物になることに気づくやいなや、それを少しずつ金に換え始め、けっきょくは何も残らない」などなど、印象深い言葉が並びます。
写真(というより人生そのもの)に対する真っ直ぐな姿勢は、チェコスロヴァキア生まれという出自に由来するものでしょうか。14歳で学業のために村を離れたクーデルカさんに、仕立屋だった父親はこう言って送り出したそうです。
「行ってこい。そしておまえが何者であるか見せてこい。世界はおまえのものだ」
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年11月5日 ]