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    レポート
    生誕130年 川瀬巴水展 ― 郷愁の日本風景
    千葉市美術館 | 千葉県
    人々の想いに応えた「昭和の広重」
    急速に衰退した浮世絵の再興を目指し、大正期はじめから作られた「新版画」。日本中を巡って風景画を描き、遂に「風景が版画に見える」までに至った川瀬巴水(かわせはすい)の生誕130年記念展が、千葉市美術館で始まりました。
    芝増上寺(東京二十景)(左)は、巴水の生涯で最も売れた作品。3000枚摺られました
    三十間堀の暮雪(東京十二ケ月)(右)
    築地本願寺の夕月(新東京百景)(右)
    《鹿児島桜しま》版木 千葉市美術館蔵
    (左から)京城慶会桜(朝鮮八景)、白羊寺雙渓楼(朝鮮八景)
    (左から)上州法師温泉、同水彩画
    《富士川》試摺
    かちどき(左)
    所蔵作品展「渡邊版 ─ 新版画の精華」には、川瀬巴水が影響を受けた伊東深水の《近江八景》が並ぶ
    絵描きとしては遅咲きの川瀬巴水。①跡取り息子のため若い頃は絵の道に進むことが許されなかった。➁鏑木清方に弟子入りを依頼するも「25歳では遅過ぎる」と門前払い。③やむなく白馬会で洋画を学ぶも、油絵には馴染めず。④再び清方に弟子入りを懇願してようやく入門が許可。この時点で、すでに27歳になっていました。

    当初は美人画や風景画を手掛けていましたが、同門の伊東深水の木版画《近江八景》を見て感服。自分の進むべき道が、木版画で日本の風景を描く事であると、ようやく気が付きました。

    時は1918(大正7)年。後に「昭和の広重」とまで称賛された木版画家・川瀬巴水が、35歳を迎えた年でした。


    会場の冒頭から

    巴水の成功は、その作品の大部分を手掛けた版元、渡邊庄三郎の手腕なくしてはあり得ませんでした。

    浮世絵の良品が海外に流出し、同時代の木版画に見るべきものがない状況を憂いた渡邊は、新たに日本的な情緒を表現できる木版画を作れば必ず売れると、鋭く予見しました。

    海外の人が求める、日本的な情緒を描ける画家。渡邊の眼鏡にかなったのが、川瀬巴水でした。

    巴水は日本中を巡りながら、味わい深い風景を次々に描写。渡邊の判断は見事に的中し、巴水の新版画は、特にアメリカで爆発的にヒットしました。


    代表的なシリーズのほか、スケッチや試摺など版画制作の過程も紹介されています

    巴水の絵で特に人気が高かったのは、雪景色の寺社、番傘、和服の人物など。大正末~昭和初期の作品としては古めかしい画題です。ゆえに「広重の継承に過ぎない」と揶揄されたこともありますが、巴水は黙々と日本の風景を描き続けました。

    関東大震災や敗戦を経て風景が大きく変わっていく中で、「日本はこうあって欲しい」という人々の想いは何なのか。巴水は誰よりも理解していたのです。

    巴水は1957(昭和32)年に74歳で死去。死の直前まで手掛けていた作品は、雪の降るなかを一人石段を進む僧侶を描いた《平泉金色堂》でした。


    戦時中に手掛けた日本軍を題材にした版画や、海外向けの月刊誌など。最期の作品は《平泉金色堂》

    展覧会では「渡邊版 ─ 新版画の精華」も同時に開催中です。渡邊庄三郎の仕事を回顧する企画で、千葉市美術館の所蔵品の中から73点が紹介されています。

    オーストリア人のフリッツ・カペラリ、山村耕花、名取春仙、吉田博らの作品とともに、巴水が感銘を受けた伊東深水の「近江八景」シリーズも展示されています。


    同時開催の「渡邊版 ─ 新版画の精華」

    巴水が没した5年後に、渡邊庄三郎も死去。残念ながら錦絵再興の流れを継ぐ者は現れませんでしたが、人々の願いに忠実に向き合った巴水の画業は、色あせることはありません。

    なお、本展は全国に巡回します。大阪展(2014年2月26日~3月10日:大阪高島屋)、横浜展(3月19日~3月31日:横浜高島屋)、山口展(3月19日~3月31日:山口県立萩美術館・浦上美術館)、京都展(9月25日~10月6日:京都高島屋)、東京展(2015年1月2日~1月12日:日本橋高島屋)です。
    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年11月28日 ]

    ※展示作品の版画は全て渡邉木版美術画舗蔵


     
    会場
    会期
    2013年11月26日(火)~2014年1月19日(日)
    会期終了
    開館時間
    午前10時-午後6時 (入場は午後5時30分まで)
    金曜日・土曜日は午後8時まで (入場は午後7時30分まで)
    休館日
    12月2日(月)、12月16日(月)、12月29日(日)~1月3日(金)、1月6日(月)
    住所
    千葉県千葉市中央区中央3-10-8
    電話 043-221-2311
    公式サイト http://www.ccma-net.jp/
    料金
    一般 1,000円(800円)/大学生 700円(560円)/小・中学生、高校生無料
    ※( )内は前売券、団体20名様以上、および市内在住65歳以上の料金
    ※障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料
    ☆きもの割引 1月4日(土)~19日(日)にきものを着てご来館の方は観覧料2割引+粗品贈呈
    展覧会詳細 生誕130年 川瀬巴水展 ― 郷愁の日本風景 詳細情報
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