16歳で徳川幕府に召しかかえられた天才絵師、狩野探幽。戦国から徳川治世による安定に時代が移る中、探幽は時代が求めた新しい絵画を、革新的な手法で生み出していきました。
そのひとつが、屏風絵に見られる大胆な余白。並べて展示された伝 狩野元信《花鳥図屏風》に比べると、狩野探幽《叭々鳥・小禽図屏風》の余白の多さは一目瞭然です。
あえて何も描かないことによって、左右への広がりはもちろん、絵の向こう側に続いていく奥行き感まで表現した探幽。瀟洒で洗練された江戸狩野は、ここに確立しました。
伝 狩野元信《花鳥図屏風》と、狩野探幽《叭々鳥・小禽図屏風》探幽が築いた江戸狩野を発展させたのが、探幽の次弟である尚信や、末弟の安信です。
本展では、現在の知名度はあまり高いとはいえない狩野尚信も大きくクローズアップしました。実は尚信は、当代一流の文化人だった近衛家熙(このえいえひろ)に絶賛された実力者。軽妙な筆致で味わい深い作品を数多く残しています。
狩野尚信《小督弾琴・子猷訪戴図屏風》と、狩野尚信《叭々鳥・猿猴図屏風》。それまでの狩野派絵師と異なり、狩野探幽は写生も重要視しました。草花をスケッチした写生図巻などが残されています。
探幽の作画姿勢を受け継いだのが、探幽の甥(尚信の子)である狩野常信。装飾的に波が描かれた《波濤水禽図屏風》にも、写実的な百合鴎が描かれています。
狩野常信《波濤水禽図屏風》会場最後に並ぶ屏風は、左が京狩野家三代目の狩野永納による《遊鶴図屏風》、右は探幽三兄弟末弟の狩野安信による《松竹に群鶴図屏風》。京狩野と江戸狩野を比較する試みです。
大きな余白で落ち着いた江戸狩野に比べると、濃密な描写で装飾性が高い京狩野。同じモチーフの作品で、差異を比べて楽しむことができます。
"京狩野"の狩野永納《遊鶴図屏風》と、"江戸狩野"の狩野安信《松竹に群鶴図屏風》「江戸時代の狩野派」といえば、狩野探幽だけがクローズアップされがちですが、その特徴と広がりを堪能できる華やかな展覧会です。
来年2月には板橋区立美術館で「探幽3兄弟展」も開催されるなど、活気づいている江戸狩野の世界。この項でのご紹介が遅くなってしまったため、展覧会はすでに会期後半です。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年11月28日 ]