前回、両屏風が並んだのは56年前。天皇・皇后両陛下のご成婚を記念する展覧会で、会場は同じ
根津美術館でした(もちろん建物が改築される前ですが)。
待ちきれない方も多いと思います。何はともあれ、早速会場に入ってみましょう。
両屏風は展示室に入って奥の、最も長い壁面ケースに並べて展示。今回は展示室内の独立型展示ケースを設置せず、鑑賞スペースを広く確保しているので、離れた場所から比べるように楽しむ事もできます。
第1章「燕子花図と紅白梅図 『模様』の屏風の系譜」《燕子花図屏風》は、光琳が40歳代半ばの時の作品。葉や茎に比べて花が大きく、右隻の左端ではかなり低い位置で咲いているなど、現実から離れた描写もあり、画面構成に力点を置いて制作した事が良く分かります。ほぼ水平に燕子花を配した右隻に対し、左隻は極端に下の方にレイアウト。金地とのバランスも非の打ちようがありません。
対する《紅白梅図屏風》は、光琳最晩年の作品。S字型の流水を挟んで、枝を上に伸ばして若々しい紅梅に対し、枝を下に向けて張り出した白梅は老熟を思わせて対照的です。幹や枝にはたらしこみの技法がみられる一方、花は可愛らしく単純化。硫化して茶色くなった流水は、当初は銀色に輝いていたはずで、金地との対比はより鮮やかだったと思われます。
《燕子花図屏風》と《紅白梅図屏風》光琳は呉服商・雁金屋(かりがねや)の生まれ。祖父の代には大いに繁盛し、注文帳には美しい衣裳文様が多く見られます。さらに光琳の曽祖父の妻は本阿弥光悦の姉という事もあり、父や祖父は光悦流の書をよくするなど、光琳の周辺には感性を刺激するものが溢れていました。
展示室2では雁金屋の衣裳図案帳や、雲母摺りが見られる光悦謡本などを紹介。光琳は宗達風のデザインに興味を持っていた事が伺えます。
第2章「衣裳模様と光悦謡本 光琳を育んだ装飾芸術」通常の根津美術館での企画展は1階の2つの展示室で開催されますが、今回は2階の展示室5でも開催中です。
屏風とならんで得意だったのが団扇。乾山の焼き物に絵付けをした兄弟コラボも有名です。円形の図案集は蒔絵の下絵で、おそらく杯用。さまざまなジャンルを手掛けた光琳は、まさにマルチクリエイターといえる存在でした。
第3章「団扇・香包・蒔絵・陶器 ジャンルを超える意匠」2大国宝の他にも《蔦の細道図屏風》(伝 俵屋宗達筆で、屏風の左右を入れ替えても模様が繋がる不思議なデザイン)、ふたつの《槇楓図屏風》(伝 俵屋宗達筆と、それを模写&アレンジした光琳筆)など、見応えたっぷりです。
次に両屏風が揃うのも今回と同じペースなら、生きているうちに見られるのは、たぶん私はこれが最後です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年4月17日 ]■燕子花と紅白梅 に関するツイート