海外の特定の市にスポットをあてた、ちょっと珍しい企画展。
国立西洋美術館での会場構成も特徴的で、通常は展示室に入ると左手に進みますが、本展では右手に折れ、いきなり階下に進みます。
まず目に入るのが《角を持つヴィーナス(ローセルのヴィーナス)》。世界的にも有名な25,000年前(旧石器時代)頃の考古資料で、今回が初来日です。
彫り込まれているのは、右手に角を持ち、正面を向いた女性像。豊穣や多産に関係するとも考えられていますが、詳しい事は分かっていません。
「プロローグ ── 起源」 《角を持つヴィーナス(ローセルのヴィーナス)》この後も1~2章は考古資料が多く、歴史系の博物館のような趣きです。
ボルドーのワイン生産は、古代ローマ時代から。大きなアンフォラ(壺)はワインの海上輸送に用いられた容器で、早くからこの地が交易の拠点であった事が分かります。
奥の胸像は《フランソワ・ド・スルディス枢機卿の胸像》。17世紀初頭のボルドー大司教だったスルディス枢機卿は豪奢を好んだ人物で、この像もバロック彫刻の巨匠、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニに依頼して作らせたものです。
1章「古代のボルドー」、2章「中世から近世のボルドー」上階の3章に進むと、いつもの国立西洋美術館の雰囲気に。ここでは、ガロンヌ河の流れに沿って三日月の形に発展したため「月の港」と称され、黄金時代を迎えた18世紀のボルドーが取り上げられます。
この時代になると、今日まで続くボルドーワインの名声が確立。それ以上に海洋貿易の発展はボルドーに大きな富をもたらし、端正な古典主義・新古典主義の都市景観がつくられました。
美しい港町の全容を描いたラクール(父)の風景画、シャルダンによる静物画らとともに、奥に進むと当時の暮らしがイメージできる陶磁器や銀器、家具なども紹介されています。
3章「18世紀、月の港ボルドー」展覧会メインビジュアルのウジェーヌ・ドラクロワ《ライオン狩り》は、4章で展示されています。
ボルドー美術館の代表的所蔵品でもあるこの作品は、1855年のパリ万博に出展するためフランス政府が注文したもの。「ライオン狩り」はこの時期のドラクロワが繰り返し取り組んでいた得意のテーマでした。
火災で画面上部が失われてしまいましたが、それでも横360cm、縦175cmという大画面。作品横にはルドンによる模写もあり(サイズはだいぶ小さ目です)、照らし合わせてみると、無くなった部分の中央は、馬上から雄ライオンに短剣をふるう人。右側は槍で雌ライオンに狙いを定めた人。要するに、凶暴なライオンが残り、互角に立ち向かっていた人物は消失している事になります。
残った画面からも強烈な猛々しさが伝わってくるだけに、なお一層「全部残っていたら…」という思いも感じます。
4章「フランス革命からロマン主義へ」 ウジェーヌ・ドラクロワ《ライオン狩り》会場はこの後、5章「ボルドーの肖像 ── 都市、芸術家、ワイン」で近世以降のワインに関連する作品・資料や、アール・デコ芸術を紹介。そして「エピローグ ── 今日のボルドー」ではフランス人アーティストによる写真作品が展示されています。
福岡市博物館からの巡回展(福岡市とボルドー市は姉妹都市関係です)で、
国立西洋美術館が最後の会場です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年6月22日 ]■ボルドー展 に関するツイート