冒頭でも「デルフォス生みの親」としたフォルチュニですが、その活動はファッションデザインだけではありません。絵画、版画、舞台美術、テキスタイルデザイン、写真、染色技術の発明と極めて幅が広く、あえて肩書をつけるなら「総合芸術家」になるでしょう。
今回は日本初となるフォルチュニの本格的な回顧展。ヴェネツィアのフォルチュニ美術館が協力し、その多面的な活動も紹介しながら、美しいドレス約30点を見せていきます。
フォルチュニはスペイン・グラナダ生まれ。同名の父は19世紀スペインを代表する画家のひとりで、母も名門の芸術家一族の出身でした。
芸術家としてのスタートは、絵画からでした。伝統的な絵画を研究した父に倣い、フォルチュニもティツィアーノやティントレットなど、ヴェネツィア派の作品を模写。父の作品も模写しています。ファッションで名を馳せたフォルチュニですが、「自らの第一義は画家である」としていました。
フォルチュニは10代からドイツの作曲家ワーグナーを称賛。創作の関心も、絵画から舞台芸術へ広がっていきました。円形パノラマと照明装置を組み合わせた革新的な舞台機構を発明、ヨーロッパ各地の劇場に採用されました。
舞台の芸術に関わる中で、衣裳に関心を寄せるのは当然の流れです。20世紀初頭は、古代遺跡がブーム。フォルチュニは古代ギリシアの彫像《デルフォイの御者》から着想し、繊細なプリーツをつけたドレス「デルフォス」をデザインしました。
日本から輸入されたともいわれる最高級の絹地を使ったデルフォスは、とても軽量。動くたびに光の印影がドレス上に浮かび、上品かつ艶やかな印象を与えます。広く大衆の心を掴み、同時代に活躍したポール・ポワレらとともに、女性をコルセットから解放しました。
デルフォスは登場から100年以上経っていますが、現在でもパーティーでセレブが着る事があります。次々に流行が変わっていくファッション分野において、これほど長く愛される装いは極めて珍しい事です。
会場にはフォルチュニが撮影した写真も展示されています。フォルチュニは、まだ登場して日も浅かった最新機器に関心を示し、絵画、素描、彫刻、建築、工芸品などさまざまなものを撮影。他の芸術に使うための撮影でしたが、構図の美しさも際立っています。
来日こそしていませんが、フォルチュニは日本とも関係がありました。裕福だった両親は、甲冑や能面など日本の品々も蒐集。フォルチュニも日本の染め型紙を所有していただけでなく、自らの染色に型染の技術を生かしたともいわれています。
美しいドレスは、三菱一号館美術館の雰囲気ともピッタリ。いかにも女性の人気を集めそうな展覧会です。第2水曜日17時以降は、女性のみ1,000円で観覧できる「アフター5女子割」もあります(当日券のみ、他の割引との併用は不可)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年7月5日 ]