「お大師さん」として親しまれている、弘法大師こと空海。今から1200年以上前の延暦23年(804)に密教を求めて唐に渡り、2年という短期間のうちにその奥儀をきわめて帰国しました。密教は奥が深いため絵画などを用いないと理解できないと空海自身が語っているように、密教の世界では絵画や彫刻などの造形作品が重視されました。現在に残る密教の美術品に名品が多いのは、そのためなのです。
今回の展覧会は空海が中国から請来した絵画、仏像、法具をはじめ、空海の構想によってつくられた教王護国寺(東寺)講堂の諸像、また空海が入定後、その息吹が残る時代に造られた作品など、密教美術1200年の原点ともいえる名品を展示するものです。青年時代の空海が書いた草稿、遣唐使の一員として唐に渡り日本に持ち帰った絵画、入定後に弟子たちに受け継がれた活動の中で生まれたさまざまな造形まで、99件が展示されています。
目玉の展示「仏像曼荼羅」。8体の仏像がお出迎えです展覧会の目玉は、展示コースの一番最後にある「仏像曼荼羅」。大日如来を中心に21体の仏像が安置されている東寺講堂から、初めて8体の仏像がまとまって出品されました(すべて国宝)。宇宙をイメージした空間に浮かび上がる仏像の間を歩きながらの鑑賞は、まさに曼荼羅の世界に入り込んだよう。普段の仏像は須弥壇(しゅみだん)の上に安置されているため高い位置にありますが、本展では鑑賞者と同じ高さに展示されているので、仏像の細部はもちろん、足元の邪鬼までじっくりと見ることができるのも特筆されます。
筆者はこれがお気に入り。国宝「降三世明王立像(五大明王のうち)」。シヴァ神とその妃を踏んづけています。また空海は「弘法も筆の誤まり」に名を残すように「三筆」のひとりにあげられる能書家ですが、本展には現存する空海直筆の書、5件が巻頭から巻末まで、期間を分けて展示されています。若き空海が仏教修行の道を選ぶことを宣言した書というべき名品「聾瞽指帰(ろうこしいき)」は、全長12メートル。「お気に入りの文字を見つけてご鑑賞ください」とあるように、力強い見事な字体は必見です。
国宝「聾瞽指帰」。当たり前ですが、達筆です。まさに右をみても左をみても、お宝だらけの特別展。東京国立博物館の広報室長からも「今年もっとも力が入っている展覧会のひとつ」との説明がありました。上野公園の
東京国立博物館・平成館で、9月25日(日)までの開催です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年7月19日 ]密教の法具。全て重要文化財