神戸市立博物館と
サントリー美術館が分蔵する「泰西王侯騎馬図屏風」。一見すると西洋絵画に見紛うような表現ながら、油彩ではなく墨や岩絵具といった日本画の材料を用いて描かれている不思議な魅力の絵画です。もとは福島・会津城の障壁画であったと伝えられていますが、戊辰戦争による開城の後に行方が二手に分かれて、両館が所有するに至りました。
図柄は西洋の王、計8名が騎馬に乗った勇壮なもの。戦国の世で武家の心を掴んだと思われますが、誰が何のために描いたのかなど、詳しいことは分かっていません。
泰西王侯騎馬図屏風ふたつの屏風が一堂で展示されるのは、東京では25年ぶりのことです。今回は東京都文化財研究所の協力により、最新の技術を用いた光学調査も行われました。
調査の結果、金地の下から「金」という指示書きの文字が見つかったほか、神戸市立博物館本とサントリー美術館本とでは金箔の厚さや純度に違いが見つかるなど、様々な新事実も判明しています。
会場本展は7章構成で、屏風以外にも同時代の南蛮漆器、南蛮屏風なども一堂に集め、宣教師と南蛮人がもたらした華麗な美術品の数々を紹介しています。
西洋の技法を身につけた日本人による美術品や、流行だった南蛮趣味を取り入れた工芸品など、南蛮からの影響は多方面に広まりましたが、後にキリスト教の禁止にともない姿を消していくことになります。第1章には南蛮船の上で日本人と南蛮人が双六(今のバックギャモン)をしている朗らかな図柄の屏風がある一方、第5章には火あぶりにされる信者を描いた凄惨な殉教図も。大きな時代のうねりが胸に迫ります。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年10月25日 ]