さまざまな物の均質化が進んだ、グローバル時代。一方で、古来から各地で独自の技術を基にしたものづくりが行われていた日本では、今なお独特の技法で工芸美を追求するアーティストも少なくありません。
展覧会は、注目すべき工芸的な作品を生み出している作家、12人を紹介する企画。3章に分けて展示されています。
まずは日本の伝統文化の価値を問い直す、第1章「和」の美。ここでは3名が紹介されています。
舘鼻則孝(1985-)は、革に友禅染で伝統的な文様を施した作品。オリジナリティあふれる靴は、レディー・ガガが愛用した事でも有名です。
舘鼻則孝
桑田卓郎(1981-)の作品は、ポップな色彩の陶器。粒状になった釉薬の縮れである梅華皮(かいらぎ)を現代風に用い、大胆な造形を生み出しています。
桑田卓郎
深堀隆介(1973-)は“金魚絵師”。樹脂の表面に金魚を描き、固まったらその上から樹脂を重ねてまた描くという、信じられない制作方法です。2018年の個展は、このコーナーでもご紹介しました。
深堀隆介
第2章「巧」の美は、手わざの限界のその先にある工芸美を目指す4名です。
池田晃将(1987-)は漆工芸作家、今回のメンバーでは最年少です。伝統技法の螺鈿においても、貝をレーザーで切るなど、現代の技術を巧みに活用していきます。
池田晃将
見附正康(1975-)が手がけたのが、展覧会メインビジュアルになっている加賀赤絵の大皿。実に細かな幾何学文様ですが、何とすべて手で描いています。
見附正康
山本茜(1977-)はガラス作家ですが、使う技法は截金(きりかね)。主に仏像や仏画で使われている装飾技術をガラスに封じ込める事で、三次元の中に繊細な世界が広がります。
山本 茜
髙橋賢悟(1982-)の作品は、アルミの鋳造。単に型に流し込むのではなく、真空加圧鋳造という特殊な技法により、金属で花びらの厚さを実現しました。その作品は「驚異の超絶技巧! 明治工芸から現代アートへ」展で、全国巡回しています。
髙橋賢悟
第3章は「絶佳」 。素材が生み出す工芸美の可能性を追求する、5名の作家です。
新里明士(1977-)は、透光性のある文様が施された磁器、蛍手(ほたるで)で、大口径の器を制作。横から見ると、上部からの光を受けて、精緻な文様が浮かび上がります。
新里明士
安達大悟(1985-)は染織。鮮やかな発色はまるでインクジェットプリントのようですが、折り畳んだ布を板に挟んで染める、板締め絞りで作られたもの。独特のにじみも特徴的です。
安達大悟
坂井直樹(1973-)の鉄瓶は、直線的な把手が印象的。現代風のフォルムですが、細い部分から大きなパーツまで、すべて金属を叩いて形をつくる鍛造(たんぞう)で制作されています。
坂井直樹
橋本千毅(1972-)は漆工芸。金属の薄板を文様に切って漆面に貼りつけ、その上から漆を塗って研ぎ出す平文(ひょうもん)により、美しい花模様が表現されています。
橋本千毅
佐合道子(1984-)は、有機的な陶芸作品。鋳込み成形を用いています。海辺のいきものを連想させるような形態と独特の質感は、白一色にもかかわらず、とても艶めかしく感じられます。
佐合道子
本来はオリンピック・パラリンピック開催を前提に、多くの訪日外国人に、日本の現代工芸の「今」を見せようと企画された本展。当初の意図とは異なる状況になりましたが、驚異的な手わざから生まれる美の数々は、同じ日本人にとっても圧巻です。超細密な表現なので、お持ちの方はミュージアムスコープを、ぜひ。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年7月16日 ]