メルセデス・ベンツ日本が1991年から始めた文化・芸術支援活動「メルセデス・ベンツ アート・スコープ」。日本とドイツ間で現代美術家を派遣・招聘し、創作活動を通して交流を図ってきました。
原美術館は2003年から、滞在の成果を発表する展覧会を開催。本展では、ハリス・エパミノンダ、久門剛史 、小泉明郎の3名の作品を紹介しています。
会場入口
最初の展示室には、ハリス・エパミノンダの作品が。2019年にドイツから招聘されたエパミノンダは、第52回ヴェネチア・ビエンナーレや2009年の森美術館「万華鏡の視覚」展にも出品。
今回は、新型コロナウイルスの影響により、輸送可能なサイズの作品をリモートで展示するという試みとなりました。
室内に敷かれているのは、式典や儀式を創造させる赤いカーペット。窓からみえるのは、赤色の補色となる庭の緑。床に置かれた金色の球体は、アイデアや記憶の象徴。それは、不在の中に存在する多くのものを表現しています。
壁には、アーティスト、ダニエル・グスタフ・クラマーによるテキストが貼られています。このテキストは、原美術館の歴史に足跡を残した音楽家・吉村弘の人生を表しています。彼のレガシーや、音楽というものへの敬意を再認識できる作品です。
ハリス・エパミノンダ(ダニエル・グスタフ・クラマーとの共作)「Untitled #01 b/l」2020年
ハリス・エパミノンダの作品は2階ギャラリーⅢでも展示。2019年の夏、スーパー8フィルムを使い日本で2ヶ月撮影した映像を、デジタル化したものです。
ハリス・エパミノンダ 「日本日記」 2020年 Photo by Keizo Kioku
ギャラリーⅡでは、2018年にベルリンへ派遣された久門剛史の作品を展示。現在、豊田市美術館で初の大規模な個展「久門 剛史 ー らせんの練習」を開催するなど、注目のアーティストです。
久門氏は、これまでPCでプログラムされた作品をナラティブに表現。音や光、立体をもちいた空間を生み出してきました。しかし、新型コロナウイルスによる自粛生活により、みるものにゆだねた作品をつくりたいという思いから今回の制作がスタートしました。
会場には、2つの作品が並びます。
社会情勢やニュースの構造を改めて考える時間となった自粛期間。表面的なインフラでなく、中身をきちんと判断しなければという思いでつくられたのは、「Infrastructure #1」。壁の成り立ちを外側からもみえるという作品になっています。
久門剛史「Infrastructure #1」2020年
裏返されたキャンバスが並ぶ「Resume」は、発表の機会を失われた作品が数多くある中、芸術に対する心の火は消えることはなく、滲み出てくることを表現。部屋に入り、時間がたつと徐々に見えてくる伏せられた表側の色。芸術から滲みでてくる波長を表しています。
久門剛史「Resume」2020年
サンルームからは、6000ヘルツの「正弦波」が。
毎回、美術館の成り立ちや、壁の傷などの細かいところを感じながら、空間づくり行う久門氏。来館者が、館内に聞こえる飛行機の音、セミやカエルの鳴き声など多くの音をマッピングし、正弦波の中で、それぞれの音を聞き、色彩を感じられる空間をつくりました。
久門剛史「Resume」2020年(部分)
最後は、2013年に「アート・スコープ」に参加した小泉明郎の「抗夢 #1(彫刻のある部屋)」。二つの空間をイヤホンをしながら行き来します。
普段は人と交流しながら演劇的手法をとりいれた映像作品をつくる小泉氏。自粛期間中にスクリーンでの接触が多かったため、映像を避けた作品がつくられました。
小泉明郎 「抗夢#1 (彫刻のある部屋) 」 2020年 Photo by Keizo Kioku
抗えない制限によるフラストレーション。人が作り出した数値や言葉はどこまで現実なのか、現実を異なる見方で捉えたのが本作品です。息子さんの宿題の音読の単調さをヒントに音声を作成。「言葉」の拘束にどう抗うかに着目した作品となっています。
この作品は、美術館で聴く「抗夢 #1(彫刻のある部屋)」だけでなく、街で聴く「抗夢 #2(神殿にて)」もウェブサイト上で発表される予定です。
コロナ禍で新たに生まれた作品たち。作家それぞれのメッセージが感じ取れる本展は、9月6日(日)まで。日時指定の予約制です。
[ 取材・撮影・文:坂入美彩子 / 2020年7月22日 ]