この展覧会は、横浜美術館コレクションの西洋美術に焦点を当て、絵画、版画、写真、彫刻を美術史の流れに沿って構成します。西洋美術だけのコレクション展は当館で初めての企画です。
横浜美術館は西洋作家による油彩画、水彩素描、版画、彫刻を合わせて約1,000点所蔵しています。なかでもダリの《ガラの測地学的肖像》やマグリットの《王様の美術館》をはじめとするシュルレアリスムの作品群と、シュヴィッタースやタトリンなど、20世紀前半にそれまでの美術の概念を覆したダダや構成主義の作品、そしてセザンヌの《ガルダンヌから見たサント=ヴィクトワール山》やピカソの《肘掛け椅子で眠る女》、ブランクーシの《空間の鳥》などのフランス近代美術は当館コレクションを特徴づけるものとなっています。
今回はそれらに加え、これまで展示される機会の少なかった作品を数多くとり上げます。横浜に暮らした登山家・随筆家で版画コレクターでもあった小島烏水(こじま・うすい)旧蔵の16世紀から19世紀にかけての西洋版画は見どころのひとつです。ウルス・グラーフの木版画《百卒長のいるキリスト磔刑》は、1470年頃より盛んになった木版画と活版印刷のテキストを組み合わせた初期挿絵本のひとつ、『リンクマンの受難伝』(1506年シュトラスブルク初刊)の中の一葉です。また、17世紀のヨーロッパを代表する風景画家クロード・ロランによる数々のスケッチを、精緻な観察と高度な技術によって版画化したアルバム『ミュージアム・クロード』(1840年頃刊)は、写真発明以前の手仕事による複製芸術の重要な作例です。小島烏水旧蔵版画コレクションにはさらに、バルビゾン派のコローやドービニー、印象派のマネ、ドガ、ルノワール、キュビスムやフォーヴィスムなど20世紀の新たな表現を開拓したピカソやマティスの版画作品が含まれています。
本展は、1982年以来三十余年にわたる横浜美術館の西洋美術収集の成果を幅広くご覧いただくとともに、木版挿絵からボルタンスキーに至る西洋美術500年の歴史をたどりながら、絵画、版画、写真、彫刻を通して美術における手仕事と写真の豊かな関係に思いを馳せていただく展示を目指します。