歌川広重は、安政5年9月6日に亡くなりました。毎年、墓所である東岳寺では法要が営まれています。
太田記念美術館では、13年ぶりの開催となる大回顧展。広重の作品は同館の所蔵作品としては最も多く、本展では代表作である風景画をはじめ、花鳥画、美人画、肉筆画まで、選りすぐりの作品が紹介されます。
展示作品の半数を占める風景画。美しい藍色や朱色で表現された空と、目の前を優雅に飛ぶ雁の群れ。また、日本橋の躍動感ある江戸の人々の様子は、観ているだけでその場にいるような気持ちになります。
《東海道五拾三次之内 日本橋 行烈振出》は《東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景》の版を新しく起こした変わり図。描かれている人数が増え、東海道の起点である日本橋の賑やかさが伝わってくる作品です。
2階では、広重が描いた花鳥画が展示されています。
背景を藍色にし、モチーフと漢詩、落款(らっかん)を白抜きした《枇杷に小禽》は、広重花鳥画の佳作。中華的な珍しい作風は、展示会場で目を惹きます。こちらは前期(9月24日)までの展示です。
地下1階の展示会場では、武者絵や戯画を紹介。《義経―代記之内 九回 五条の橋に牛若丸武蔵防弁慶を伏す》は、牛若丸と弁慶が闘う場面が躍動的に描かれています。
注目して欲しいのは、その背景。薄暗い夜の空は藍と薄墨を重ね、美しい満月はわずかに見える程度。二人の緊張感ある闘いが表現されています。
総展示数は、200点以上。前・後期で全点展示が入れ替えられます。今回紹介した作品のほとんどは、前期のみの展示です。
見た後には「広重って、風景画の?」というイメージが、変わるかもしれません。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2018年8月31日 ]