遊びに興じる人々を表現した絵画や工芸品を中心に紹介する本展。中でも、数多く展示されている「遊楽図」が見ものとなります。
展覧会は月次絵(つきなみえ)の紹介から。12カ月の風物を描いた月次絵には、しばしば遊んでいる人々の姿が描かれます。正月の羽子板、12月の雪遊びなど、いまでも馴染み深い遊びも見られます。
貴族の雅びな遊びとして、よく知られる蹴鞠(けまり)。平安時代に流行しましたが、近世でも行われたため、江戸時代の絵画に描かれています。
「琴棋書画」も、遊びのひとつといえます。琴・囲碁(将棋ではありません)・書道・絵画の4つの技芸を指し、もとは中国で文人や君子のたしなみとされ、多くの絵画に描かれています。
江戸時代の邸内遊楽図などでは、琴は三味線に、囲碁は双六(すごろく)に変化。庶民の遊びとして取り込まれています。
徳川美術館蔵の重要文化財《遊楽図屛風》(相応寺屛風)は、近世初期の遊楽図を代表する逸品です。屋外の水遊びから、輪舞、カルタ、双六(すごろく)、飲食、蒸し風呂まで。まるでアミューズメント施設のようです(展示は7/15まで)。
双六は、本展の核といえる遊び。そもそも今回の展覧会は、重要文化財《清水・住吉図蒔絵螺鈿西洋双六盤》がサントリー美術館蔵になった事がきっかけです(本展でお披露目となります)。
西洋双六は、現在のバックギャモンです。サントリー美術館蔵の西洋双六盤は、豪華な装飾が特徴的。清水寺と住吉大社に参詣する人々が、蒔絵と螺鈿で表現されています。
西洋双六とルーツは同じですが、盤双六は別のゲーム。8世紀には日本に伝わっており、伝統的な遊びです。あまりに流行しすぎて、度々禁令が出されているほどです。
カルタも西洋由来ですが、こちらは南蛮交易で入ってきた新しいゲーム。「天正かるた」や「うんすんかるた」など、さまざまなバージョンに進化したほか、教養目的のカルタも作られています。
遊楽図には輪舞する人々がしばしば描かれていますが、江戸時代の寛永から寛文年間には、舞妓をひとりずつ描いた作品が数多く制作されました。絵画の主題は女性や衣装が中心となり、この流れは美人画に繋がっていきます。
絵の中から声が聞こえてきそうな、楽しい展覧会。髪形やファッションこそ違いますが、リラックスした人々の雰囲気は今と全く変わりません。さらに、その姿を絵画にして室内で楽しむという感性が、とても進歩的に思えました。
展覧会の会期中、8月6日(火)は、恒例の夏休み特別イベント「まるごといちにち こどもびじゅつかん!」。小・中学生とその保護者を対象に、イベントやワークショップなどさまざまな催し物が行われます。詳しくは公式サイトにて。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年6月25日 ]
※会期中に展示替え有り