兵庫県三田市にアトリエを構える新宮 晋(1937-)は、風や水など自然の力で動く作品で世界的に知られる芸術家です。
幼い頃から絵や工作が得意だった新宮は、東京藝術大学で油絵を学んでいましたが、卒業後に渡ったイタリアで、風で動く作品の魅力に気づき、自然エネルギーにより動く立体作品の制作を始めました。帰国翌年の1967(昭和42)年に日比谷公園で開催した個展で注目され、1970(昭和45)年の大阪万博では出品作家のひとりに選ばれます。以後、世界各地の室内外の公共空間に作品設置を続け、その数は160点に上ります。特に、1994(平成6)年、建築家レンゾ・ピアノが設計した関西国際空港ターミナルビルに設置された作品は、循環する空気の流れを美しく見せ、建築と彫刻が響き合う好例として高く評価されました。兵庫県内でも、JR神戸駅前の《海からのたより》や三田市の青野ダム公園の《水の木》等、多くの新宮彫刻を目にすることができます。近年では、兵庫県立有馬富士公園に「新宮 晋 風のミュージアム」がオープンし、人々が自然の中で憩いながら彫刻を楽しむことが出来るようにもなりました。
一方、新宮は、こうした制作と並行して、ヨーロッパとアメリカの諸都市を回る野外彫刻展「ウインドサーカス」や、作品設置を通して世界各地の先住民と交流する「ウィンドキャラバン」等のアートプロジェクトを精力的に展開し、自然の素晴らしさと、人間と自然の関係を問うてきました。既存の枠に収まらないこうした活動は高く評価され、現在も世界を舞台に活躍を続けています。
本展では、自然に恵まれた地球を「奇跡の星」と考える新宮が、展覧会の空間全体をひとつの「宇宙船」と捉え、新作を中心とする約15点を出品します。安藤忠雄による建築空間とのコラボレーションが見所のひとつとなるでしょう。さらに、これまで各地で開催されてきたプロジェクトの映像や、子どもたちに人気の絵本、彫刻の模型、自然の力で自立する未来の村「ブリージング・アース」のプランなどを加え、新宮の世界を総合的に紹介します。風や水の力により複雑で心地よい動きを見せる作品を通して、地球の力を感じ、自然が持つ魅力に改めて目を向けるきっかけとなれば幸いです。