はしもとみおは、動物の彫刻を木彫で制作する彫刻家です。中学生だった1995年1月、兵庫県尼崎市の自宅で阪神・淡路大震災を体験した彼女は「私のおうちはぼろぼろになり、近所の通学途中好きだった犬や猫も姿を消し、大好きだった景色や、大好きだった動物たちが、ある日ふっと、なくなる」経験をしました。そして、「どれほど美しかっただろう、どんな手触りだっただろう、失ってしまった命を、医学で取り戻す事は不可能だけれど、彫刻という力を借りて、その姿を残す事はできる」と考え、彫刻の道を志すようになります。
東京造形大学造形学部美術学科彫刻専攻領域で学んだ後、愛知県立芸術大学大学院美術研究科美術専攻彫刻領域に進んで研鑽を積んだはしもとは、現在、三重県いなべ市の自宅兼アトリエで充実した制作活動を行っています。「自分の仕事は、木の中にある命を探して、ほりおこすこと」と語るはしもと。クスノキを削り、彩色を施して生まれた動物たちは、それぞれの身体的特徴が巧みに表現されているばかりか、彼らの性格や飼い主の愛情まで反映し、生き生きとした魅力を放っています。
この展覧会では、2018年の干支である犬をはじめ、現在ブームとなっている猫や、羊・山羊・ラクダなどの家畜、チンパンジー・オランウータン・シロマユテナガザルなどの類人猿といった様々な動物彫刻を一堂に展示。彫刻の下絵となったドローイングや、一匹一匹の動物についての心あたたまるエピソードと共にご紹介します。個人蔵の作品など、これまで未公開だった作品10点が初出品され、はしもとの愛犬「月くん」(2002-2017)の幼年期から14歳までの「犬生」をたどる肖像彫刻5点が勢ぞろいします。
アール・ヌーヴォー様式のフランスの家具が並ぶヤマザキマザック美術館の展示室に、いつもより少しおすまし顔で集まってきた動物たち。生命が存在した証を刻み続けるはしもとの真摯な創作の世界をご堪能ください。