展覧会タイトルの「浮世絵モダーン」は、本展独自の呼称。浮世絵版画の復興を目指して大正時代~昭和10年代まで制作・出版された伝統木版の事で、通常は「新版画」と呼ばれています。本展では、その「浮世絵モダーン」を5章で紹介します。
江戸後期以降の浮世絵は美人、役者、風景の三つがメイン。第1章「女性」は、最先端の風俗やファッションを描いた美人画といえます。
展覧会メインビジュアルの伊東深水《対鏡》は、黒と紅、そしてうなじの白と、三色のコントラストが映える作品。深水は『深い紅と黒髪からのぞく襟足の美しさを表現することを主眼とした』と語っています。
続く第2章「風景」には、どこか郷愁を誘う日本の原風景が並びます。川瀬巴水の《旅みやげ第二集 金沢下本多町》は、青々と茂った巨木の下に華奢な女性が描かれた作品。鮮やかな夏の色合いは、ひと際目を惹きます。
1章「女性」、2章「風景」第3章「役者」は、歌舞伎や新派の作品が展示されています。新版画の役者絵といえば、山村耕花や名取春仙ら。版元の渡邊庄三郎の求めに応じて、大正期の芸術思潮を反映させた、近代の役者似顔絵を大成させました。
続く第4章では、西洋絵画の写実的表現を意識した、近代花鳥版画の新たなる可能性を示しています。高橋松亭の花鳥版画は、名所絵という設定や、遠近法の強調などが、歌川広重『名所江戸百景』の影響を見せています。ただ全体としては、西洋的な情景描写へ傾斜していることが確認できます。
最後の5章「自由なる創作」では、従来の三大画題を踏まえながらも、より個性を重視した作品が多く登場します。大正から昭和前期の社会や風俗など、その時代の様子を自由に表現しています。
3章「役者」、4章「花鳥」、5章「自由な創作」開館30周年を迎えた町田市立国際版画美術館の節目の展覧会。出品総数は前期・後期合わせて約300点と大ボリューム、常時約230点の作品が並びます。展示替えについては、公式サイトの出品リストをご確認ください。
本展の後に、三重県の
パラミタミュージアムに巡回します(12/6~2019年 1/14)。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2018年4月20日 ]■町田市立国際版画美術館 に関するツイート