戦前から財界の重鎮として活躍した原安三郎氏(1884-1982)のコレクションを紹介する本展。原氏は昭和10年代から浮世絵を収集し、特に北斎や広重の風景画の質の高さは定評があります。
浮世絵は木版画のため、版を重ねるごとに劣化が避けられませんが、今回展示されるのは「初摺(しょずり)」のなかでも特に時期が早いもの。広重が摺師に指示している段階のため、広重の意図がそのまま反映された作品群といえます。
会場は、五畿七道の名所を描いた《六十余州名所図会》から。作品を引き立たせる展示には定評があるサントリー美術館ですが、今回はさらに格別。じっとりと滲み上がるようなぼかしは、とても150年前に摺られたとは思えません。
歌川広重《六十余州名所図会》展覧会は広重による《名所江戸百景》と《六十余州名所図会》が中心ですが、吹き抜けエリアでは別作品も展示。葛飾北斎や歌川国芳の名所絵が紹介されています。
中でも《千絵の海》は、幻のシリーズといえる逸品。北斎が日本各地の水辺を描いた作品ですが、残存例が少なく、10図が揃っているコレクションは希少です。
実は原氏も存命中には9図までしか蒐集できず、本展の準備中にようやく最後の1枚を加える事ができました。
葛飾北斎《千絵の海》なども展示下のフロアは《名所江戸百景》。出版当初からたいへんな人気を集めた揃物です。
江戸市中と郊外の名所を描いた作品で、大胆にクローズアップした近景と遠景の風景を対比させた構図が特徴的。吊るされた亀の「深川萬年橋」、大鷲が見下ろす「深川洲崎十万坪」などは、良く知られています。
会場では作品の解説パネルに添えて、該当する場所を写真で紹介。広大な原野だった広尾、海が広がる高輪など、現在の姿との違いもお楽しみいただけます。
歌川広重《名所江戸百景》浮世絵好きの方なら、図柄そのものは見た事がある作品も多いと思いますが、摺りの違いでこれほど印象が変わるものかと、改めて感じます。
サントリー美術館で開幕した全国巡回展。東京の後は広島(福山)、大阪、福島、新潟、福岡(北九州)と巡回します。
会場と会期の詳細はこちらです。※会期の途中で展示替えがあります
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年4月29日 ]■広重ビビッド に関するツイート