わずか40数年の生涯で、1,400点以上の銅版画を残したジャック・カロ。イタリアではメディチ家の宮廷附き版画家に抜擢され、帰郷後もロレーヌ内外の宮廷や貴族たちの注文に応えて名声を広め、華々しく活躍しました。
作品のテーマも実に多彩です。風景や町などの実在する風景から、奇想に溢れた世界まで、社会が求めていた関心を敏感に察知しながら、斬新に表現していきました。
会場入口から展覧会は7章で構成されます。
1章「ローマ、そしてフィレンツェへ」
2章「メディチ家の版画家」
3章「アウトサイダーたち」
4章「ロレーヌの宮廷」
5章「宗教」
6章「戦争」
7章「風景」
国立西洋美術館が所蔵する約400点のカロの版画から、本展では約220点が出展。その世界に迫っていきます。
4章「ロレーヌの宮廷」カロの作品で最も良く知られているのが、連作〈戦争の悲惨(大)〉です。傭兵たちの軍籍登録、戦中の蛮勇と狼藉、戦後の報復や裁きを18点(表題紙含む)で描いたもので、凄惨な描写も目につきます。
作品が印刷された1663年は、フランス軍がロレーヌ公国に侵攻した年。そのため、この作品はフランスへの抗議として制作されたという説もありましたが、かなり前から作られていた事が分かると、この説は下火になりました。むしろ、カロ自身の暴力的な描写などへの関心が制作動機になっているという考え方が、現在では有力です。
6章「戦争」会場内には、触って楽しめる「みどころルーペ」も2カ所に設置されています。
DNP大日本印刷が開発した展示装置で、大型ディスプレイ上の絵をタッチすると、その部分を拡大して楽しむ事ができるすぐれもの。特にジャック・カロのように精密な作品には効果抜群で、建物の中に描かれた小さな人物まで、じっくりと楽しむ事ができます。
「みどころルーペ」企画展示室の後半では、作家の平野啓一郎さんをゲストキュレーターに迎え、平野さんの芸術観で館蔵作品を紹介する「非日常からの呼び声 平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」展も開催中。同じ観覧券で続けてご覧いただけます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年4月8日 ]