本展の主役は「画家彫刻家新協会(ソシエテ・ヌーヴェル)」。サロンを支える新進芸術家が中心となった会員制のグループです。強い主義を持たず、画風は穏やか。世代的には印象派とモダニズムの間(1850年代後半から60年代の生まれ)にあたり、当時のパリ画壇では人気・実力ともに中心的な存在でした。
展覧会は、ソシエテ・ヌーヴェルのメンバーを中心に紹介する企画。会場冒頭のトップバッターはエドモン・アマン=ジャン(1858-1936)です。
エコール・デ・ボザール(国立美術学校)出身のアマン=ジャン。同窓のジョルジュ・スーラとはアトリエを共有する関係でした。欧州滞在中の児島虎次郎と親しく、児島が大原孫三郎の命を受けて洋画を蒐集する際に協力。大原美術館の収集作品第1号もアマン=ジャンの作品と、日本とも縁が深い画家です。
エドモン・アマン=ジャンの作品続いてアンリ・マルタン(1860-1943)、同じくエコール・デ・ボザール出身です。新印象派的な点描法を用いた作品から、後年になると象徴主義的な作品も描いています。
マルタンは壁画の名手としても知られ、ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの後継者とも評されていました。
アンリ・マルタンの作品アンリ・ル・シダネル(1862-1939)も、エコール・デ・ボザール出身。フランス芸術家協会展(ル・サロン)への出品を通じて、アマン=ジャンやマルタンと親交を結びました。
雨に濡れたパリを描いた《コンコルド広場》は、1910年の国民美術協会展に出展された作品。地面に反射する街灯の光で、発達した都会の姿を抒情豊かに描きました。
ちなみに本展はアンリ・ル・シダネルの曾孫で美術史家のヤン・ファリノー=ル・シダネル氏が監修。氏の尽力もあり、本展には各作家の遺族をはじめ、多くの個人蔵の作品が集まっているのも特徴的です。
アンリ・ル・シダネルの作品これ以外にも決して著名とは言い難い画家の名前も出てきますが、作品そのものは粒揃い。参考出品を含めて23人の作品が紹介されます。
コレクターとしても知られるアンリ・デュエム(1860-1941)の《羊飼いと羊の帰還》は、森の向こうの夕焼けがドラマチック。ルネ=グザヴィエ・プリネ(1861-1946)の《カブールの浜辺》は、横長の画面に空が全く描かれていないにも関わらず、明るい陽射しと爽やかな風が感じられる優品です。
あわせて23人の作品が紹介されます穏やかな視点で自然を捉えた作品は、先鋭的な芸術運動の前では徐々に影が薄くなっていきましたが、時代の共感を呼んでいたのは事実。近年、フランスで再評価の動きも進んでいます。
展覧会は1年以上かけて全国を回る巡回展。東京の後は
岐阜県美術館(11/14~2016年 1/17)、
ひろしま美術館(2016年 1/30~3/27)、
秋田市立千秋美術館(2016年 4/21~5/29)、
北九州市立美術館分館(2016年 6/4~7/18)、
鹿児島市立美術館(2016年 7/22~9/4)、
郡山市立美術館(2016年 9/17~10/30)と進みます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年9月8日 ]■最後の印象派 に関するツイート