1998年、60歳を機に政界を引退した元内閣総理大臣の細川護熙氏。引退後は神奈川県湯河原町の「不東庵」に居を移し、昨陶や書にいそしんでいます。頻繁に個展も開催されている陶芸作品はご存知の方も多いかと思いますが、今回は美術館における最初の油絵による展覧会となります。
展覧会タイトルの「胸中の山水」は、細川氏が若い頃から愛唱してきた漢詩の世界のこと。陶淵明「飲酒」、崔顥「黄鶴楼」などの漢詩の一節を直筆した書の作品と、その漢詩をイメージした絵画を11点づつ、対になるかたちで展示されています。細川氏が絵画をはじめたのは2009年で、知人に基本を教わった後は無手勝流。中には銀箔の上に描いた油絵など、個性的な作品も出品されています。
細川氏は若い頃から閑居への憧憬があったそうで、93年に非自民連立政権で首班指名を受けてからも「心はいつも田園に惹かれ続け、その誘惑と闘うのは容易なことではありませんでした」(細川護熙「胸中の山水」青草書房 より)といいます。政界の頂点に立った後の突然の引退と、晴耕雨読の生活。その自由なライフスタイルには憧れる方も多いのでしょうか、本展には連日多くのお客様が来館されているそうです。
菊池寛実記念 智美術館(きくちかんじつきねん ともびじゅつかん)は、2003年のオープン。現代陶芸のコレクターである菊池智が蒐集した数々の現代陶芸を所蔵しています。立地はホテル・オークラすぐ近くの高台で、隠れ家的な雰囲気。1階のフレンチレストラン「ヴォワ・ラクテ」では、美しい日本庭園を眺めながら食事を楽しめます。
美術館に隣接する西洋館は大正時代に建てられた国の登録文化財で、通常は非公開ですが、展覧会の会期中に特別公開されます(有料)。本展期間中は、11月12日(土)と12月10日(土)の2回開催。予約制ですので、詳しくは公式サイトでご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年10月12日 ]