アントニオ・ロペスは1936年生まれ、今年で77歳になります。日本では20年ほど前にロペス自身が出演する映画「マルメロの陽光」が公開されたため、覚えている方もいるかもしれません。筆者は
マドリード・リアリズムの異才、磯江毅の流れから、その名前を知った記憶があります。
本展は、初期の美術学校時代から近年までに手がけた油彩、素描、彫刻の各ジャンルの代表作を厳選した展覧会です。全64点を7章に分けて紹介していきます。
第1章 : 故郷
第2章 : 家族
第3章 : 静物
第4章 : 植物
第5章 : 室内
第6章 : マドリード
第7章 : 人体
ロペスの絵画を見ていくと、とても制作期間が長い作品があることに気づきます。たとえば、長崎県美術館が所蔵している《フランシスコ・カレテロ》の制作は、1961年から87年までと、実に四半世紀。当初は小品の肖像画として描いたものですが、モデルであるカレテロの死を機に、支持体を継ぎ足して現在の大きさにしたものです。
ロペスは14歳から美術学校で学び、60年余りも絶え間なく作品を制作していますが、キャリアの長さに比べて作品が多くないのは、このような制作スタイルを通しているためです。同じように画面を継ぎ足している絵画は、「室内」や「マドリード」の章の作品にも見られます。
本展のメインビジュアルになっている愛らしい少女は《マリアの肖像》。アントニオ・ロペスの長女マリアが9歳の時の肖像です。大きな瞳、きゅっと結んだ口元。見事なコートの質感も印象的ですが、なんとこの作品は鉛筆による素描です。ロペスにとって素描は油彩の下書きではなく、独立したひとつの表現スタイルだということが良く分かります。
もう一点のメインビジュアルで、ポスターなどに使われている風景画は《グラン・ビア》。マドリード随一の目抜き通りを描いたこの油彩は、ロペスの最も良く知られた作品のひとつです。ロペスは毎日早朝に地下鉄で現地に通い、20~30分ずつ制作。7年間にわたって、同じ場所にイーゼルを立て続けました。グラン・ビアはロペスにとって大きなテーマであり、2008年から新たなグラン・ビアの連作を制作、現在も続けられています。
残念ながらいつもの動画による会場紹介はできませんが、「リアリズム」の一言では説明できない圧倒的な存在感です。開幕前からネットでも期待の声が多く見られましたが、前評判どおり。大作が多いこともあり、見ごたえたっぷりの展覧会です。
なお本展は巡回展で、長崎県美術館で2013年6月29日(土)~8月25日(日)、岩手県立美術館で2013年9月7日(土)~10月27日(日)に開催されます。(取材:2013年4月26日)