展覧会は年代順に3章構成。天心に出会った明治期、天心没後の大正時代の交流関係、大正末期~昭和初期の円熟期と進みます。
第1章は「良き師との出会い:大観と天心」。大観は入学した東京美術学校で生涯の師となる岡倉天心に出会い、天心が東京美術学校校長から排斥された「美術学校騒動」では天心と行動をともにします。
従来の線描重視から離れた大観の挑戦は「朦朧体」と揶揄され、貧苦を味わいないながらも研鑽を続けました。
第1章「良き師との出会い:大観と天心」第2章は「良き友、紫紅、未醒(放菴)、芋銭、溪仙:大正期のさらなる挑戦」。本展で最多の作品が紹介されています。
大観の交友関係といえば、これまでは菱田春草や下村観山など、ともに天心から教えを受けた仲間との関係が有名ですが、本展では今村紫紅、小杉未醒(放菴)、小川芋銭、冨田溪仙という大正期以降の交友関係に着目。
芋銭以外の三人は大観よりかなり若輩ですが、大観は年齢に関係なく才能を認めた人々と交流しながら、自らの作風を発展させていきました。
第2章「良き友、紫紅、未醒(放菴)、芋銭、溪仙:大正期のさらなる挑戦」展覧会メインビジュアル《秋色》(しゅうしょく)は、この章での紹介。大正6年の作品で、再興第4回院展に出品されました。
左隻には寄り添う雌雄二匹の鹿。蔦の紅葉を表した緑と朱色が屏風全体に広がり、実に艶やかな作品です。
横山大観《秋色》1917(大正6)年大観の交友関係にスポットを当てた本展にふさわしい作品が、大観と下村観山、今村紫紅、小杉未醒(放菴)による合作《東海道五十三次絵巻》です。
彼らに表具師を加えた五名が、汽車に乗らずに人力車や馬車などで東海道を旅行、現地で写生をしながら各場面を描き継いで作りました。日本美術院の資金獲得を目的に、二組制作されています。
横山大観、下村観山、今村紫紅、小杉未醒(放菴)による合作《東海道五十三次絵巻》1915(大正4)年そして3章が「円熟期に至る」。長い研究の末にさまざまな技法を身に着けた大観は、昭和期に入るとさらに充実。独特の世界観を確立していきました。
4人の良き友は、小杉未醒以外は大観より先に亡くなりましたが、大観は晩年まで盟友たちの作品を手許に置いて愛でていたと伝えられています。
3章「円熟期に至る」第一回文化勲章受章者でもある横山大観。その作品はとても人気があり、所蔵者が大切にしているため長期間の展示は難しく、本展も会期は44日間ながら展示替えが行われます。展示作品については公式サイトをご確認ください。
なお、本展の音声ガイドを務めるのは竹中直人さん。松村克弥監督による映画「天心」で岡倉天心役を務めました。映画での横山大観役は中村獅童さん、こちらもぜひ。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年10月4日 ]