視覚に関する科学的探究の深まりとともに本格化した「だまし絵」の世界。前回同様に16世紀絵画から現代美術までを対象にした多彩な作品が並びますが、今回は現代美術の作品を数多く紹介しているのが特徴的です。
展覧会は4章構成ですが、その前に古典的な巨匠の作品を紹介する序章から。展覧会メインビジュアルであるジュゼッペ・アルチンボルドの人物像のほか、側面から見ると意味がある絵に見える「アナモルフォーズ」の手法で描かれた絵画などがこちらで展示されています。
「序章」1章は「トロンプルイユ」。仏語で「目をだます」という意味のこの言葉は、美術では「事物が本物そっくりに、かつ目の前に実在するかのように描かれた絵画」として用いられます。
米国のスーパーリアリズムの流れを受けた作家のほか、須田悦弘の木彫(
一昨年に千葉市美術館で個展が開催されました)、福田美蘭の絵画(
こちらは昨年、東京都美術館で個展が開催されました)などが展示されています。
第1章「トロンプルイユ」2章は「シャドウ、シルエット&ミラー・イメージ」です。
福田繁雄の《アンダーグランド・ピアノ》は、一見では意味不明の造形物が、ある地点から鏡に映った像を見るとグランド・ピアノになっている作品。「日本のエッシャー」と称される福田の真骨頂です。
ラリー・ケイガンは、ワイヤーの作品に光を当てると、蚊やトカゲの影が壁に映し出される作品。ワイヤー作品なので抜けている部分が多いにも関わらず、投影された影ではきちっと面ができているのに驚かされます。
2章「シャドウ、シルエット&ミラー・イメージ」3章は「オプ・イリュージョン」。1960年代後半に現れたオブ・アート(オプティカル・アート)は、幾何学的な形態や色彩の作用で、画面上に凸凹や振動などの効果をもたらす手法です。
鮮やかな色彩で目をひくヴィクトル・ヴァザルリ、描かれた作品の形状と遠近法の作用を利用した「リバースペクティブ」で、視線を動かすと驚くべき動きを見せるパトリック・ヒューズの作品などが並びます。
3章「オプ・イリュージョン」最後の4章は「アナモルフォーズ・メタモルフォーズ」。エッシャーやマグリッド、ダリなどもありますが、ここも目を引くのは現代美術作品。
縦に極端に引き延ばされたエヴァン・ペニーの《引き延ばされた女 #2》は、コンピュータで原型を制作した作品。二次元の画像加工はPhotoshopなどでお馴染みですが、立体になるとここまで違和感を覚えます。
4章「アナモルフォーズ・メタモルフォーズ」東京展は10月5日まで。10月15日~12月28日に
兵庫県立美術館、2015年1月10日~3月22日に
名古屋市美術館 に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年8月8日 ]