
《遅日》 橋本関雪
大正2年、関雪は、念願であった中国旅行を実現させ、帰国後に開催された第7回文展において本作を発表し、二等を受賞しました。
中国唐時代の詩人・杜審言の詩あたりに画題を求めたのでしょう。藤樹の下で憩う二人の人物と三頭の馬が描かれています。手綱を牽く青年は思慮に耽り、一方、鞭を持つ童子は、藤の香りに誘われ心地よさそうな二頭の馬に、愛おしい表情を浮かべています。
大正期の関雪の作品には、「裏箔」の使用が多く見られます。裏箔とは、絹の裏面に箔を貼ることで、金銀のもつ輝きを抑え、落ち着いた色調を得ようとする技法のことです。本作もまたそのひとつで、裏箔の仄かな光が、春の午後のうららかな雰囲気を見事に演出しています。
担当者からのコメント
関雪(1883~1945)はたびたび中国を訪れ、その風物を題材にした作品を多く手がけました。さらに昭和に入ると動物画が多くなり、何かに思いを巡らせるような、まるで人間のような複雑な感情がうかがえる動物を描いています。
どこから筆を入れたのか分からないほど繊細に表された毛並みは、関雪の動物画の魅力のひとつ。本作の馬のつややかな毛並みの表現には驚かされます。
※小展示室で開催中の「十二支の動物たち」(会期:2025年12月1日~2026年2月28日)では、「遅日」右隻のみ展示しています。