「僕の頭には、強い劣等感と、確固たる優越感とが、気圧の様に流動している。そして、これ迄の経験によって培われてきた脳みそからは、酵素が発酵して、いろんなイメージ(イデアともいうべきか)が次から次へと泡立っているのである。
そして又、どんなコンピュータよりも以上に、万能的に訓練されてきたこの10本の指は、脳から神経をへたイメージを、選ばれた素材に刻みつけるのである。この刻印されたものは、最早ただの物質ではなく、その時の作家(僕)の、呼吸する息のこめられた永久不滅の僕の像(墓標)なのである。」
(上前智祐『現代美術―僕の場合―』共同出版印刷 1988年発行)
上前智祐(うえまえ ちゆう 1920-2018)は京都府中郡(現_京丹後市)に生まれ、1949年より神戸を拠点に制作活動を行った美術家です。10代で南画を学んだ後、洋画に転向し、1947年「第二紀会」第1回展に入選、同年に洋画家・黒田重太郎に学びました。1952年に吉原治良のクレパス画に感銘を受け、翌年に吉原宅を訪ねて指導を仰ぎ、吉原が率いた前衛美術グループ・具体美術協会には草創期の1954年から1972年の同会解散まで、会員として参加しました。
上前は、吉原に師事して以降、一貫して非具象絵画を追求し、絵具を丹念に積み重ねた緻密な点と線による油彩画、マッチ軸を支持体に塗り込めた絵画、木やオガクズを使用したオブジェに加え、1975年頃からは、古布に運針を施すことで、点描や線描を表現した〝縫い〟の作品を制作。また、1980年頃からは墨画から展開して版画制作を始め、2000年代以降はオガクズやボンドを使ったモリアゲ作品の制作にも取り組むなど、1972年の具体美術協会解散後もその精神を受け継ぎ、生活の中で日々新しい美意識を獲得しながら、絵画、縫い、オブジェ、版画と様々な技法により生涯をかけてその非具象の美を追求しました。
当館では、母体企業の株式会社シマブンコーポレーションの関連会社で上前がクレーンマンとして働いていたという縁もあり、上前が存命中の2012-13年に「卒寿を超えて 上前智祐の自画道」展を開催して以降、2回目の上前智祐展開催となります。
今展では上前の独創的な縫いの作品を中心に、初期の具象絵画から後年の非具象絵画、オブジェ、版画などと共に展観します。積層する時間が込められた、点や線の集積が生み出す豊かな色彩とマチエールをご覧いただき、描くこと、創ることで画境を深めつづけた上前作品の本質と魅力に迫ります。
また、関連企画として、講演&放談 、ピアノコンサート&サイレント映画、BBミュージアムマルシェ、手縫いブローチのワークショップなどを予定しています。
詳細は、HPにてご確認ください。