寺島紫明(明治25・1892~昭和50・1975年)は兵庫県明石に生まれました。少年のころは歌人若山牧水の門下となるなど文学に親しみましたが、やがて画家を志し、21歳のとき鏑木清方に師事しました。長い研鑽のときを経て35歳で帝展に初入選、44歳より終の栖とした西宮の画室から幾多の名作を生みだし、78歳で日本芸術院恩賜賞を受賞しました。
紫明芸術の真髄は、女性の顔や姿、衣装などの外形的な美しさを遙かに超えた表現にあります。花柳界に身をおく女性の、伏し目がちで愁いを帯びたまなざし、甲南や芦屋などに住む上流夫人の、ひざの上や袖の内にそっと添えられた端正な指さき。女性の表情やしぐさの奥に潜む感情の機微をとらえ、その人となりや生き方までをも深く描きだしました。
このたびの展覧会では、大関株式会社の珠玉のコレクションを中心に、代表作「彼岸」をはじめ半世紀ぶりに発見された幻の作品や初公開作などを含む約65点を紹介いたします。芳醇な色香をたたえる女性像を描きつづけることに心身ともに捧げた60年におよぶ画業をたどります。