もはやコンピュータは現代に生きる私たちにとって欠かすことの出来ない身近で重要な存在になっています。今から半世紀以上も前に誕生したコンピュータは、時代の経過とともにその役割を益々広く大きなものにしてきました。そして科学技術の分野ばかりではなく芸術分野においても、コンピュータを用いた芸術表現をしようという試みにより、歴史上多くの人たちによって斬新で実験的な作品が世に送り出されてきました。
それらは単なるエポックメイキングな珍しい表現や、単なる先進性の追及や表出という働きかけではなく、作品や表現を成立させる図像生成の仕組みや芸術理念の根幹に関わる、造形のための方法論・・・すなわちアルゴリズムを分析し構築することによって、今までに無い新しい造形世界を模索しようというものだったのです。逆に言えば、そうした造形のためのアルゴリズムをもっとも効率よく、機能的に具体化していく機械がコンピュータでした。
絵画やグラフィックデザインの領域においても、感性や技能の踏襲、熟練という手法に依存せず、さまざまな論理性や原理に基づく数理的な解析を用いた記述(プログラム)によって、人間の手だけでは創出できなかった視覚造形を実現することが試みられました。つまりそうした芸術創造の手法を実践してきたアーティストやデザイナーたちは、単なる道具としてだけではなく、コンピュータを用いるための構成理論や思想、原理などの総合的な諸方法にまで踏み込んだ表現の先駆者だったのです。
1950年代から発生したコンピュータ・アートは、こうしたアルゴリズムを確立し、プログラム化していくことで作品を制作してきました。そうした新しい芸術の道を切り開いてきた先駆者たちの業績は、後の巨大化、高速化し、商品化されていったコンピュータと、定格化され汎用化されたソフトウェア(アプリケーション)によって、簡易にそして大量に製作や発表が可能となったコンピュータ・アートやコンピュータ・グラフィックスへの発展を導く礎でした。そしてまた現在でもその系譜と傾向は、研究・教育の場でも再び重要視されつつあります。21世紀を迎えた現在、こうしたコンピュータ・アートの先駆的活動を再認識し、かつ総括していくことの意義は大きいと考えます。
この展覧会では、国内外の歴史的なコンピュータ・アートの作品、そしてそれら芸術的アルゴリズムの思想や理論の継承者たちの作品や資 ソ約250点を紹介します。また会期中には、コンピュータ・アート、芸術アルゴリズムに関する講演会、パネルディスカッション、ギャラリー・トークなどが開催されます。
この展覧会を通して芸術史におけるコンピュータ・アートの意義や、先駆者をはじめとするコンピュータ・アーティストたちの作品を直接的・具体的に紹介することで、これからの美術・デザイン教育、そして芸術創作への新しい可能性に踏み出していく手段と展望を得る、貴重な機会になることでしょう。