19世紀末に創刊された美術雑誌『パン』や『ユーゲント』、そして1920年代のバウハウスのグラフィック・デザインは、その当時から日本でもよく知られていました。しかしながら不思議なことに、ドイツにおけるグラフック・デザインの展開、とりわけポスターの歴史をひもとく展覧会は、これまでわが国で大々的に開催されたことがありませんでした。
5つの章から成る展覧会の最初の見どことは、象徴主義や分離派など、世紀末美術の影響を色濃く受けたドラマティックな絵画的表現によるもの[1890~1900年代]、その流れを受けて、より高い芸術性を追求した事例、そして、1900~1910年代に花開いた、宣伝される事象を背景から際立たせ、平明な文字列と組み合わせたドイツ独自の広告スタイル「ザッハプラカード」[即物的ポスター]の数々です。
続いて登場する、第一次世界大戦・戦後[1914年~1920年代初め]に制作された「プロパガンダ」[政治的宣伝活動に供する広告]では、書体や図案で「ドイツらしさ」を全面的に訴えるザッハプラカートに加え、表現主義的な傾向の作品に、不安な時代状況を読み取ることができます。
これらに対して、1920年代中期以降のポスターには、近代的な都市の様相、新しいライフスタイルなどが描き出され、その華やかさとスタイリッシュな表現が大きな見どころになっているといえることでしょう。あわせて、1919年に開校し、1933年に閉鎖されたバウハウスに代表されるモダン・グラフック—主として文字列から成るライポグラフィカルな作品、限定された色と抽象的なかたちによる構成主義的な事例、写真や最新の印刷技法の導入など、現代につながるポスターの模索も窺い知ることができます。
結びとなる第5章では、同時代の日本とドイツの関わりについて、様式的な影響を眺めるのではなく、むしろドイツのグラフック・デザインがどのように紹介されたのかを、いくつかの雑誌メディア、それらに関与したひとびと、日本の企業広告におけるドイツ人デザインナー起用、わが国における第一次世界大戦の戦争ポスター展の開催という視点から顧みます。