イギリスの芸術評論家ジョン・ラスキンは、産業革命にともなって出現した機会文明を批判し、手工芸が生活と深く結びつき、日々の創造的な労働に喜びが感じられていたイタリア中世の時代を論じました。このラスキンに心酔したウィリアム・モリス(1834~1896)は、機械による量産を否定、無名の職人たちによる中世の手工芸を理想とした美術芸術運動「アーツ・アンド・クラフツ」を展開します。
このモリスの周囲には、建築家のフィリップ・ウェッブ、家具のアーネスト・ギムソン、デザイナーのウォルター・クレインなど、多彩なジャンルの才能が集結した芸術家集団が生まれ、テキスタイル、書籍、壁紙、家具などの手作りで制作しました。1888年には第1回アーツ・アンド・クラフツ展協会による展覧会が開催され、運動は最高潮に達します。さらに1890年代に入ると、建築家チャールズ・レニー・マッキントッシュがリーダーとなったスコットランドのグラスゴーが、この運動の一大中心地となりました。
その影響は日本を含め、フランスのアール・ヌーヴォーや、ドイツ・オーストリアのユーゲント・シュティールなど欧米の産業化した国々へ急速に広まりました。とりわけアメリカでは、1890年代後半以降、アーツ・アンド・クラフツ展協会が各地の主要都市に設立され、陶器や工芸の美術家村が多数生まれるほどになりました。
銀器から陶器、家具、テキスタイル、照明、宝石、書籍など多彩なジャンルにまたがる作品群は、それぞれが手の温もりを感じさせ、今の時代にあっても新鮮な輝きに満ちています。