小林かいち(本名:嘉一郎、1896~1968)は、近年注目されつつある京都の図案家です。大正時代の後期から昭和初期にかけてのおよそ10年、絵はがきや絵封筒のデザインを数多く手掛けました。木版によるそれらの作品は、ピンクやブルーによる独特のグラデーション、赤と黒などの明快な色の対比の中に、女性像やハート、植物、月や星、トランプや十字架などを配したモダンなもので、現代にも通用する色彩感覚、デザイン力といえるでしょう。
かいちの存在は、以前から好事家の間では認知されていましたが、展覧会という公の場で取り上げられつようになったのは、最近のことです。1992年のフィリップ・バロス・コレクション「絵葉書芸術の愉しみ」展、次いで2004年にはエスティーローダー・コレクション「美しき日本の絵はがき」展が日本各地を巡回し、そこに含まれた小林かいちの作品が脚光を浴びると、以後立て続けにその紹介が始まります。国内の個人コレクションによるそれらの展覧会は、いずれも、大正モダンや竹久夢二ら抒情画家たちとのグループ展でしたが、2007年にはかいちの出身地かつ活動の本拠地である京都において、単独でかいちを扱う始めての展覧会「小林かいちの世界~京都アール・デコの真髄展」が開催されるに至りました。2007年10月には群馬県の伊香保に、小林かいちを常設する保科美術館が出現、もっぱらプライベートな愉しみであったかいち作品を、多くの人々が享受できる環境か整いました。その後、2008年2月にはご遺族が名乗り出られ、経歴不明であったかいち研究は、ひとつの転機を迎えます。
本展は、かいち作品の常設館である保科美術館の全面的な協力を得て、東京でかいちを大々的に紹介する初の展覧会となります。約300点の作品を通して、未だに謎の多い小林かいち研究の進展に寄与するとともに、多くの人に、未知の作品との出会いの場を提供できれば幸いです。