1つ1つ咀嚼し、自分の中に沸き起こるものを味わいたいと思わせる力ある作品たち。いくつもの展覧会を同時に見たような濃厚な時間が過ごせる「高松コンテンポラリーアート・アニュアルvol.10 ここに境界線はない。/?」が高松市美術館で開催中です。

「高松コンテンポラリーアート・アニュアル」は独創性、将来性のある優れた作家を紹介する現代アートのグループ展。2009年に始まり11回目を迎える今回は5名の作家を紹介します。 和紙の素材を生かした立体作品を制作するウチダリナさん。和紙を焦がして色や柄を描いた「蛾」《Moths ― 》は、わずかな光を目指し、ここに飛んできたかのよう。本展では、彼女自身の出自にまつわる事柄を「平成(バブル)」として表現したインスタレーションを発表。立体作品、写真、映像、そして彼女の文章はどれも繊細ながら抜け出しにくくなるほどの吸引力があります。

ウチダリナ《Moths 一》2019年

ウチダリナ《すべてがあわになる》2021年
久保寛子さんは先史芸術や民俗芸術、文化人類学の学説を主なインスピレーションとして作品制作しています。星と海をテーマにした大作《オリオンの沈むところ》の素材は、ブルーシート。彼女はそれを「災害の頻発する土地でスクラップ&ビルドを繰り返しながら生きている現代人の象徴のよう」とし使用しています。古代・近代の図柄とブルーシートのギャップに萌えながら、鮮やかな青に脆さを感じます。

久保寛子《オリオンの沈むところ》(部分)2020年

久保寛子《オリオンの沈むところ》(部分)2020年
イサム・ノグチ設計のモエレ沼公園でのパフォーマンスをもとにしたビデオインスタレーションは潘逸舟さんによるもの。自然風景の中に彼の身体が入り込んでいくパフォーマンスを作品にしています。
映像に遠く小さく映る登山者(潘さん)の姿は孤独感を誘い、聞こえてくる荒い息遣いは、スピーカーとコードが散乱する床を気遣いながら歩く自分自身のものなのかと錯覚させられます。

潘逸舟《そこにない足跡-モエレ山》2021年 ビデオインスタレーションも出展されています
「大正生まれの架空の三流画家ユアサエボシ」として制作するのはユアサエボシさん。150点の《GHQ PORTRATS》や大型の絵画を見つつ、架空のユアサさんと現実のユアサさんの間を行ったり来たりしながら鑑賞する感覚は、癖になりそうな新しい体験です。

ユアサエボシ《GHQ PORTRAITS》2017年

ユアサエボシ《余命宣告》2020年
最後は森栄喜さんのサウンドインスタレーションの作品が展示されています。スピーカーから聞こえるのはハンドベルの音。クリスマスに聞こえてくる高らかで華やかさのある音色とは違い、静けさを感じます。「深く傷つき、心が痛み、まだ立ち直っていない少年がいます。あなたは声をかけることも、背中をさすってあげることもできません。
でもその代わりに、彼へ、ベルを鳴らすことができます。」のメモとともにハンドベルを友人に送り、そのメモを手掛かりにベルを鳴らしてもらいました。男性の性被害について記された配布テキストとベルの音は忘れてはならないものとなりました。

森栄喜《盗まれた傷たち| Stolen Scars》2022年

森栄喜《シボレス|破れたカーディガンの穴から海原を覗く》2020年 繊細な詩的な言葉が流れる作品はテキストとともに。中2階で展示
展覧会タイトルのように5人の作家が魅せる世界は、自分と他(人、もの……)に境界線あることを気づかせてくれました。それを崩し飛び越えるのは自分次第。目線を高く、遠くに。世界は足元から広がることを知ります。

高松市美術館1階ロビー
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2022年2月17日 ]
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