釈迦の誕生を祝う4月8日の灌仏会(かんぶつえ)が「花まつり」と呼ばれるように、花と縁が深い仏教。その美しさは浄土のイメージにも通じ、仏教絵画や工芸品ではさまざまな花が表現されています。
釈迦八相は、釈迦の生涯に起きた重要な出来事です。MOA美術館蔵の重要文化財《釈迦八相図》は、元の絵を切り取って四幅に仕立てたもの。吉祥草を敷き、菩提樹の下で瞑想する釈迦など、各所に植物が描かれています。
ただ、気候が違うため、インドボダイジュは日本では育ちません。日本の寺院に植えられているボダイジュは、葉の形が似ている別の植物です。
「花」とは少しずれますが、三点並ぶ「仏涅槃図」の中で、中央の作品は必見です。
入滅する釈迦を弟子や動物たちが嘆き悲しむ仏涅槃図では、一般的に猫は描かれませんが、修復を終えたこの作品には、猫の姿が確認できました。あまり可愛くは無いですが、会場で探してみてください。
蓮華は、仏教を代表するイメージです。濁った水から茎を伸ばし、水に触れずに美しい花をさかせるハスは、煩悩に汚される事なく境地を目指す仏教の教えにたとえられます。
ただ、ハスの花は基本的に白と赤のみ。仏教でいう蓮華には、青紫や黄色の花を咲かせるスイレンも含まれています。ハスとスイレンも、別の植物。葉に切れ込みがあるのがスイレンです。
浄土図の《兜率天曼荼羅》には、植物が満載です。弥勒が居る場所である兜率天。青や赤の不思議な植物、金の宝樹には羅網(らもう)、蓮華の花の中からは往生した人が生まれます。
本展メインビジュアルの重要文化財《愛染曼荼羅》は、枠の部分に美しい花をあしらった「蓮華唐草文」が。近年、一番外側の枠も植物を描いた「吉祥草文」である事も分かりました。
日本の仏教では、しばしば桜も表現されます。《春日宮曼荼羅》では、桜花に彩られた春日社を、神が住む美しい聖域になぞらえています。
日に日に温かくなり、散策にも良い季節。ぜひ天気の良い日を選んで、根津美術館自慢の庭園もお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年2月27日 ]