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    レポート
    取手から眺める藝大の歴史と現在 ─ 「藝大取手コレクション展 2025」(レポート)
    東京藝術大学大学美術館取手館 | 茨城県
    取手館開館30周年と取手収蔵棟竣工を記念。藝大における教育の歩みを紹介
    コレクションの全容を紹介。卒業制作や教育資料を通して学びの系譜を辿る
    隣接している収蔵棟では作品の保管と公開を両立させた「魅せる収蔵庫」も

    東京藝術大学大学美術館取手館が開館30周年を迎え、新たな収蔵施設「取手収蔵棟」も完成。これを記念した展覧会が開催されています。

    取手館、取手収蔵棟で保管している約13,000件に及ぶ収蔵品の中から、学生たちの自画像や卒業・修了制作、教育資料などを精選。創立140周年を目前に控えた藝大の歩みと、学びの系譜をたどります。


    東京藝術大学大学美術館取手館
    東京藝術大学大学美術館取手館


    展覧会は3章構成で、第1章「自画像:1925→2025」から。東京藝術大学では、卒業制作としての自画像収集を明治31年(1898)頃から続けています。

    現在では約7,000件の自画像を収蔵。己を描くことで時代をも映し出した世界に類を見ないアーカイブになりました。


    東京藝術大学大学美術館取手館「藝大取手コレクション展 2025」会場より 第1章「自画像:1925→2025」
    第1章「自画像:1925→2025」


    第2章は「卒業・修了制作:学びの集大成」。取手館では、優秀な成績を収めた学生たちの卒業・修了制作を収集・保管し、学内外で公開してきました。

    日本画、油画、彫刻、工芸、デザイン、先端芸術表現、GAPの各専攻から選ばれた作品群が、本学における多彩な表現の軌跡を物語ります。


    東京藝術大学大学美術館取手館「藝大取手コレクション展 2025」会場より 第2章「卒業・修了制作:学びの集大成」
    第2章「卒業・修了制作:学びの集大成」


    會見明也の《残像偶像 no.3[境界面上において変わりゆく自他について]》は、情報化社会における身体観を主題とした作品。

    AIが生み出す「理想の身体」と、現実の「今ここにある身体」との関係性を問いかけます。


    東京藝術大学大学美術館取手館「藝大取手コレクション展 2025」会場より 會見明也《残像偶像 no.3[境界面上において変わりゆく自他について]》2024年 絵画科油画専攻卒業制作
    會見明也《残像偶像 no.3[境界面上において変わりゆく自他について]》2024年 絵画科油画専攻卒業制作


    木戸龍介の《Inner Light -Thai Public Chairs-》は、タイで日常的に使われるプラスチック製の椅子を題材にしました。木戸は現地で使用されていた椅子を集め、電動ドリルやヒートガンで加工しました。

    安価でありふれた素材を彫ることで生まれる“空(ヴォイド)”が、物質の構造と意味に新たな価値の転換をもたらします。


    東京藝術大学大学美術館取手館「藝大取手コレクション展 2025」会場より 木戸龍介《Inner Light -Thai Public Chairs-》2023年 美術研究科美術専攻(GAP研究領域)博士課程修了制作
    木戸龍介《Inner Light -Thai Public Chairs-》2023年 美術研究科美術専攻(GAP研究領域)博士課程修了制作


    髙橋賢悟《origin as the flower funeral》は「死を悼む心」をテーマにした《flower funeral》シリーズの原点です。

    埋葬と供花の習慣があったとされるネアンデルタール人の頭蓋骨を、勿忘草の花で成形。生花そのものを用いた特許技法による極薄鋳造(厚さ0.1mm)で、花びらの筋や雄しべまでを精緻に再現し、生命の儚さを美として昇華させています。


    東京藝術大学大学美術館取手館「藝大取手コレクション展 2025」会場より 髙橋賢悟《origin as the flower funeral》2022年 美術研究科美術専攻(工芸研究領域)博士課程修了制作
    髙橋賢悟《origin as the flower funeral》2022年 美術研究科美術専攻(工芸研究領域)博士課程修了制作


    第3章「過去に学ぶ:未来へ繋ぐ教育資料」では、開学当初から収集されてきた教育資料を紹介します。取手収蔵棟の完成により、整理・研究が進み、展示公開が可能になりました。

    収蔵品には、明治期の学生作品や彫刻手本、ヨーロッパ製石膏像など、多様な芸術資料が含まれています。


    東京藝術大学大学美術館取手館「藝大取手コレクション展 2025」会場より 第3章「過去に学ぶ:未来へ繋ぐ教育資料」
    第3章「過去に学ぶ:未来へ繋ぐ教育資料」


    岡倉天心は、明治期に東京美術学校の基礎を築いた教育者です。彼の時代から伝わる2,000点以上の作品は、講義や模写の教材として使われてきました。

    展示されている椅子は、天心が校長室で使用していたと伝えられるもの。藝大の教育の精神を象徴する資料のひとつです。


    東京藝術大学大学美術館取手館「藝大取手コレクション展 2025」会場より 《伝 岡倉天心使用の椅子》明治時代
    《伝 岡倉天心使用の椅子》明治時代


    会場では「本邦初の国内産オルガン」も展示されています。アメリカ出身のお雇い外国人L.W.メーソンの指導のもと、才田光則が明治14年(1881)に製作しました。

    内部部品はアメリカから輸入されましたが、外装などは国内で製作。修理を重ねつつ保存され、明治期の音楽教育の情熱を今に伝えています。


    東京藝術大学大学美術館取手館「藝大取手コレクション展 2025」会場より 才田光則《オルガン》1881年
    才田光則《オルガン》1881年


    取手館についてもご紹介しましょう。取手館は上野の芸術資料館分館として、取手校地の丘陵地に建設されました。設計は六角鬼丈氏で、1994年の竣工です。

    館内の随所に竣工当時の教官による作品が設置されており、ドアのバーやトイレの衛生陶器にまで遊び心が見られます。建築そのものが藝大らしい表現空間といえます。


    大藪雅孝《裸婦》(男子トイレ洗面器)
    大藪雅孝《裸婦》(男子トイレ洗面器)


    美術館の取手館と隣接するかたちで、2024年に竣工したのが取手収蔵棟です。ここでは作品の保管と公開を両立させた「魅せる収蔵庫」を、2025年4月から一般に公開しています。

    「魅せる収蔵庫」では藝大スタッフによるガイドツアーで、作品保管の様子を見学。通常の展覧会とは異なった雰囲気で、美術館の裏の姿を楽しむことができます。WEBからの完全予約制です。


    美術館取手館とは2階で繋がっている取手収蔵棟
    美術館取手館とは2階で繋がっている取手収蔵棟

    「魅せる収蔵庫」
    「魅せる収蔵庫」


    学生たちの創作の軌跡と教育の歴史を通して、藝大が培ってきた「学びと表現の精神」に触れることができる展覧会。藝大の過去と現在、そして未来をつないでいるかのようです。

    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年11月12日 ]

    東京藝術大学大学美術館取手館「藝大取手コレクション展 2025」会場
    高村光太郎《獅子吼》1902年
    会場
    東京藝術大学大学美術館取手館
    会期
    2025年11月13日(木)〜11月30日(日)
    会期終了
    開館時間
    展覧会により異なります
    休館日
    11月17日(月)、18日(火)、25(火)
    住所
    〒302-0001 茨城県取手市小文間5000
    電話 0297-73-9111
    公式サイト https://museum.geidai.ac.jp/exhibit/2025/11/toride-collection25.html
    料金
    無料
    展覧会詳細 「藝大取手コレクション展 2025」 詳細情報
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