京都の伝統工芸「西陣織」は皆さまきっとご存知でしょう。では山鹿清華(やまがせいか1885~1981)という人物はいかがでしょうか。
明治大正昭和を生きた染織作家で京都の染色芸術界において先駆者である重要人物です。生誕140年を迎え、京都市京セラ美術館では大規模な回顧展が開催されています。

京都市京セラ美術館
通常西陣織は“染め”や“織り”を分業制で進めますが、山鹿清華は下絵・糸染め・織りを一人で完成させる、その一連の工程を「手織錦」名づけました。
染織図案や日本画を学び、にちに神坂雪佳に師事するなどし、才能に恵まれた山鹿はこの手織錦で製作した《孔雀》(1925年)がパリ万博で特選を受賞し一挙にその評価が世界に広まりました。(今回この作品も展示されています)。その後注目を浴びた《和蘭陀船》(1927年)は原寸大の織下絵とドイツのルートヴィッヒ・コレクションに所蔵される完成品のパネルが並べられていますが、その船内の様子や人物の表情などとてもリアル感があって楽しい作品です。
織りの工程では、スケッチなどを完成品と同じ大きさの下絵に拡大し、配色したイメージに沿った色に糸を染めます。縦糸の下に下絵を置き、下絵を透かしながら横糸を織り込んでゆく作業は膨大な時間がかかります。この《闘士カンガルー》をみてください。茶色のバリエーションが豊富ですが普通の糸だけでなくビニールの紐も使われているようで立体感とキラキラ感があります。三角のモチーフや背景のサボテンのような植物模様もとてもポップで可愛さがあります。会場の途中では「手織錦」の製作過程がわかる動画も見ることができ、実際の手順がよくわかります。

西陣織の世界を広げた染織家・山鹿清華の展覧会 展示風景

右が下絵 左が手織錦の完成屏風 山鹿清華《立花》 1935年 京都市美術館蔵

立体感がわかりますか。山鹿清華《闘士カンガルー》 1960年頃 京都市美術館蔵

小部屋の展示や広間でも映像を使って製作過程をわかりやすく解説
また、山鹿清華はいくつかの時事ニュースを織物で表現しました。東京タワーは1958年の完成を祝う作品。その隣は何と1930年に販売して間もなくの冷蔵庫の中を野菜と共に霜や配管まで表現するなど、多くの人が関心を持つ話題を作品として表現して見せるなんてことをやっているんです!

時の話題をタペストリーに仕上げるという奔放さ
更に驚くのは宇宙をテーマにしたもの。《星座・月・ロケット》は人類の夢と希望を乗せた宇宙開発競争のニュースに呼応し、多くの人々の夢を後押しするかのような作品。大きさや豊かな色彩もさることながらモコモコした“シェニール”という糸を使って噴射の様子を表現したり、ロケット周辺のモチーフは、絣によって輪郭をぼかしてスピード感を出すなど多彩な織技法による工夫がみられます。併せて展示されている小下絵に近づいてよく見てください。 ロケットの周りを囲む星座の柄にはちゃんと名前が書かれていて、配置に細かい意志が示されています。
会場をさらに進むとロケット柄の黄色い帯が展示されていますが、これはフィギュアスケーター“りくりゅう”ペアの三浦璃来さんが園遊会出席時に着用されたそうです。高く舞い上がったプログラムの技にぴったりのイメージです。

ダイナミックなイマジネーションで宇宙を表現 《星座・月・ロケット》 1958年 京都市美術館所蔵

下絵(一部)には、よく見ると星座の名前の記載あり

アポロ11号も題材に。山鹿清華《月着》1969年 東京都現代美術館蔵

こちらはフィギュアスケートの三浦璃來さんが園遊会で着用した帯 山鹿清華原案 《噴花》 1964年頃 きもの百科イトカワ蔵
もちろん京都西陣織界重鎮としての作品は、祇園祭鉾の懸装品やホテルの室内装飾などにも多く残されていて、京都の伝統を支え伝える美術品となっています。

祇園祭など大きな祭礼装飾も手がけています

空間を彩る旅のパノラマ。山鹿清華《大雪連峰之図》二代目「大雪丸」グリーン船室出入口広間大壁飾 1965年 特定非営利活動法人語りつぐ青函連絡船の会所蔵
伝統を守る織物技術の継承と山鹿独自の手法そしてイマジネーションで自由奔放に表現したアートとしての要素が交差することで、世界的評価をぐっと高めた功績を知れたことはとても貴重な機会に感じました。
さて、今日の私のお気に入りは《深海》です。ぐるぐると渦巻くような円形の深海に住む魚や生き物たちをまとめた作品ですが、その顔形はグロテスクでもありユーモラスでもあり、するどい歯のチョウチンアンコウや隙間を泳ぐエビやカサゴなど輪廻を感じるような図柄は未知なる深海世界のイメージを見せてくれています。

今日のお気に入り。山鹿清華《深海》1965年 公益財団法人日本伝承染織振興会蔵
特設ショップのオリジナルグッズでは京都の名店などとコラボした商品もあって楽しくお買い物できます。会期中のワークショップや子供向けジュニアガイドも参考になることが多いので活用したいものです。美術館1Fの常設ミュージアムショップでは、市美所蔵の山鹿作品を使用したブックカバーなども購入することができます。伝統工芸を新しい切り口から広めた山鹿清華の作品を知って、染織芸術の奥深さに脱帽することとなりました。

コラボグッズも多彩
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2026年9月18日 ]