奈良市写真美術館「川島小鳥写真展「つきのひかり あいのきざし」」
文 [エリアレポーター]
カワタユカリ / 2018年6月29日
バス停を降りると、すこし懐かしい匂いがする住宅街。目にするモノクロのポスターが街並みに馴染んでいます。
私はいつの間にか足早になっていました。向かう先は、入江泰吉記念奈良市写真美術館。
『川島小鳥写真展 つきのひかり あいのきざし ~尾野真千子と川島小鳥』が手招きしています。
写真家の川島小鳥さんといえば、写真集『未来ちゃん』が浮かびます。
マニュアル通りの「子供」のイメージを超えた「かわいさ」「ずるさ」「たくましさ」などに、強烈なパンチをくらいました。
ちょっとざらついた質感の写真に、気持ちは引っかかったままでした。
今展では約200点の作品が並んでいます。
写真の中の尾野真千子さんは、テレビやメディアで見たことがないような優しく、寂しく、また愛らしい表情で、この人は誰だろうと思うほど新鮮です。
展覧会を担当している兼古さんは「一人のモデル(尾野真千子)が表現豊かに、様々な顔を見せているのは川島小鳥の感性、サービス精神旺盛さが表れているということ」と指摘します。
モノクロの写真は、とても「すなお」なものでした。
彼のカラー写真から感じる「現実と非現実間の揺れ」を白黒で、どう表現するのかの想像に対し、そこには「そのまま」がありました。
「過ごした時間、経験を逃さないように」撮影したと川島さんは言います。
どんな風に撮ろうと頭で考えても、尾野真千子さんに見透かされているようで、余計なことを考えず、ただシャッターを押したそうです。
今までにない新しい感覚に出会ったようでした。
館長の百々俊二さん(写真家)は、「被写体との距離がいい」と話します。
台湾と奈良での撮影が進むにつれ、2人の距離間は変わり、それは写真に如実に表れています。
また、人物写真の間にすっと差し込まれている日常的風景こそ、川島さんのリアルな視線であり、独自の感性を感じます。
館長は「少しずらしたような空間の取り方が抜きんでている」と繰り返します。
「まいったなぁ。」最後に何気なくつぶやいた館長の言葉は、川島小鳥さんの写真や人柄を言い表していて、頷く私もすっかりまいっていることに気づきます。
写真家であることで出会える人や街、そして生まれる疑問もカメラを通して答えに導かれると、川島さんは話します。
彼にとってのカメラは、私たちにとっては「川島小鳥」ですと、いつか小鳥さんに伝えたい、なんて。
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カワタユカリ
美術館、ギャラリーと飛び回っています。感覚人間なので、直感でふらーと展覧会をみていますが、塵も積もれば山となると思えるようなおもしろい視点で感想をお伝えしていきたいです。どうぞお付き合いお願いいたします。
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