器に樹脂を流し、その表面にアクリル絵具で金魚を描写。固まったらその上から樹脂を重ね、また描き…。深堀隆介さんによる金魚は、信じられないプロセスで制作されています。
理屈としてはレイヤーを重ねた絵画なので、斜めから見ると立体感が失われるはずですが、なぜかどこから見ても立体的。見事なテクニックで、圧倒的な存在感を生み出しています。
深堀さんは愛知県生まれ。美術家としての活動に息詰まっていた時に、自室で七年間放置しながらも生き続けていた金魚に目がとまり、金魚をモチーフにした制作を始めました。
樹脂に直接描き出したのは2002年からです。愛知県立芸術大学ではメディアデザイン専攻と、洋画や日本画のようなバックボーンを持たなかった深堀さん。オリジナル技法を求めた結果、この手法に到達しました。一連の作品は注目を集め、現在では国内外で高く評価されています。
平塚市美術館では2016年の企画展で深堀さんの作品を紹介した縁もあり、本展が企画されました。深堀さんにとっても、公立美術館での大規模展は今回が初めてとなります。
会場では学生時代の作品から最新作まで、約200点を展示。会場冒頭には、新旧の「金魚酒(枡に入った金魚の作品)」が並べて展示されており、創作の変遷も楽しむ事ができます。
ひと部屋丸々使った《平成 しんちう屋》は、会場の最後。しんちう(真鍮)屋は、江戸時代に不忍池にあった日本で最初の金魚店で、美しい金魚を追い求めている作家の姿と重ね合わせています(このコーナーのみ撮影可能です)。
見過ごしてしまいそうですが、金魚が描かれている器も特徴的です。「深堀が使用していたニトリの磁器の小鉢」と「人間国宝・中川清司氏の木桶」、「ブリキの金魚の皿」と「発掘されたササン朝ペルシャ時代の陶器」が並んでいるなど、なかなかユーモラス。一方で、東日本大震災の被災者が使っていた上履きや筆洗いバケツに描いた作品もありました。
都心近くとは言い難い美術館ですが、感度が高い人なら見過ごすわけにはいかない展覧会です。夏休みなので子ども連れでも楽しめるように、展示ケースの前には踏み台も用意されていました。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年7月9日 ]