展覧会は大きく7つのエリアで構成されており、冒頭は展覧会タイトルでもあるインスタレーション作品『不完全』です。
白い山(素材は羊毛や綿など)に、石膏像が林立している作品。明治以来、石膏デッサンは美術教育の定番でした。過去の遺物ともいえる石膏像を通じて、日本における近代美術の出発点を再考しようと試みます。
小沢さんが金沢で感じた不思議を形にしたのが『金沢七不思議』。作品を構成する「ねぶた人形」「博多人形」などは、現在では、美術として捉えられる事はありません。明治時代に輸入された西洋由来の「純粋芸術」からこぼれ落ちた品々を、見世物小屋風の仕立てで紹介します。
『す下降にンバンレパ兵神神兵パレンバンに降下す』は、初公開の新作。鶴田吾郎による著名な戦争画《
神兵パレンバンに降下す》をモチーフに、鏡面状に転写しました。敵に向けた銃口は自分に向き、敵に投げる手榴弾は自分に向かう。時世を映しているかのようです。
『不完全』『金沢七不思議』『す下降にンバンレパ兵神神兵パレンバンに降下す』下のフロアに進むと『帰って来たペインターF』。歴史上の人物を題材にしたフィクション(一部は事実)のシリーズです。ここでの「ペインターF」は、藤田嗣治。精力的に戦争画を描き、敗戦後に責任を問われた藤田は、実際には戦後にパリ(フランス)に戻りますが、ここではバリ(インドネシア)に渡ります。
明治時代に行われた興行をイメージしたのが『油絵茶屋再現』。五姓田芳柳と義松の親子が、見世物小屋で油絵を披露した事に由来します。油絵こそ、当時の最先端技術。現代の目線では一般的に思える肖像画も、驚きをもって受けられました。‘最新技術を用いたリアル感’は、今でいえばVRでしょうか。
『醤油画資料館』は、とてもユーモラス。醤油で絵を描く「醤油画」は小沢さんによるフィクションですが、「桃山時代が全盛」「明治時代に再評価」など、妙に設定がリアルなので、本当の出来事のように感じます。リキテンスタインやウォーホルのポップ・アートも、醤油画になりました。
最後が『なすび画廊』。内側を白く塗った牛乳箱を画廊に見立てて、著名アーティストとコラボ。貸画廊という日本独自の制度への批判からはじまった作品ですが、世界各地で展開されました。
『帰って来たペインターF』『油絵茶屋再現』『醤油画資料館』『なすび画廊』表現は軽やかですが、発想のベースと作品に至るまでのプロセスは、かなり理知的です。日本美術の流れをある程度理解している方は、よりお楽しみいただけると思います。
最近の展覧会は撮影できるものが増えつつありますが、本展も撮影可能(フラッシュ・三脚・自撮り棒・動画撮影は不可)。撮影後は「# 不完全」で、拡散お願いいたします。
展覧会にあわせた関連イベントもいくつか用意されていますが、注目は2月17日(土)のアーティストトーク。会田誠さんらをゲストに迎え、デッサンをしながら経験にもとづいたトークを行います。当日12時から整理券が配布されます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年1月16日 ]■小沢剛 不完全 に関するツイート