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レポート
ざわつく日本美術
サントリー美術館 | 東京都
「心がざわつく」ような展示方法や作品で、日本美術のエッセンスを紹介
会場は「うらうらする」~「ざわざわする」ユニークなタイトルの6章構成
サントリー美術館が誇る国宝・重要文化財の名品から珍品まで、多彩な作品

美術作品を見た時「えっ?」「おっ!」など、言葉にならない「心のざわめき」を感じる事はないでしょうか。「心がざわつく」展示方法や作品で、作品の新たな魅力に迫る展覧会が、サントリー美術館で開催中です。

会場冒頭は、まるでお化け屋敷のよう。《尾上菊五郎》は、役者の肖像が浮世絵から写真へと移り変わる過渡期に、当時最先端の印刷技術で作られたものです。

浮世絵に親しんでいた庶民には、独特の陰影表現による異様なリアル感は、受け入れられなかったと伝わります。



《尾上菊五郎》明治8年(1875)頃 以下、作品は全てサントリー美術館蔵


奥に進むと全体で6章構成、第1章は「うらうらする」です。

美術作品には正面や表面がありますが、ひっくり返すと思いがけない顔が隠れている事もあります。重要文化財《色絵五艘船文独楽形鉢》には底裏に「寿」の文字が記されており、それが分かると、器の内外に記されたオランダ船が、宝船のように位置付けられていた事がわかります。



重要文化財《色絵五艘船文独楽形鉢》有田 江戸時代 18世紀


《邸内遊楽図屛風》は、妓楼の中でカード遊びや踊りに興じる人々を描いた作品。作品内に描かれた屛風は、裏側に円形文様がみえますが、この模様は「鳥襷文」(とりだすきもん)で、屛風の裏側としては定番の柄。実際にこの《邸内遊楽図屛風》も、裏側は鳥襷文です。



《邸内遊楽図屛風》(部分)江戸時代 17世紀


第2章「ちょきちょきする」は、切断された作品たち。美術品の中には、伝来した長い歴史の中で、もとの姿から切り離されたものもあります。

重要文化財《佐竹本・三十六歌仙絵 源順》は、鎌倉時代を代表する肖像画の名品ですが、本来の姿は36名を上下2巻に描いた巻子。

売り立てに出されましたが、その価値の高さから一人では購入出来なかったため、大正8年(1919)に歌仙ごとに分割。くじ引きにより諸家へ分配され、各所蔵者が好みの掛軸に仕立てました。



重要文化財《佐竹本・三十六歌仙 源順》伝 藤原信実 画・伝 後京極良経 書 鎌倉時代 13世紀


西洋画法を学んだ日本人が描いた初期洋風画の名作として知られる、重要文化財《泰西王侯騎馬図屛風》も、分割された作品です。

本来は神戸市立博物館所蔵の屛風とペアで八曲一双でした。ばらばらになり八曲一隻になった本作は四曲一双に改装されましたが、表装の工夫で元の姿に近いかたちで見る事ができます。



重要文化財《泰西王侯騎馬図屛風》桃山時代 17世紀


第3章は「じろじろする」。作品をよく見るのは鑑賞の基本です。じっくり見る事で、ぱっと見では知りえない発見があります。

《茶練緯地宝尽模様腰巻》は、高貴な武家の女性が夏に着る正装。宝珠、打出小槌、宝巻などが緻密に刺繍で表現されています。中でも宝袋は、小さな袋の中の絵柄もそれぞれで違うという、驚異的な手仕事の技が見て取れます。

この章は、あえて作品名や解説文の文字が、絵文字になったり霞ませたりしているのもポイントです。キャプションの遊びも手掛かりにして、作品を愉しんでいただこうという趣向です。



《茶練緯地宝尽模様腰巻》江戸時代 19世紀[展示期間:7/14~8/9]


第4章は「ばらばらする」。本来セットであるはずの作品を、あえてばらばらにした構成です。

展示されているのは、身と蓋から構成されるセット物の作品たち。硯箱は本体と蓋が分けて展示されており、「違いを見極めて本当のセットを探して」と、促します。

離れて展示されていると、文様や形、技法の違いを、おのずとよく見る事に。身と蓋がセットであることの意味を意識的に考えることができます。



第4章「ばらばらする」展示風景


第5章は「はこはこする」。やや章タイトルに無理がありますが、箱と中身について。美術品、特に日本の古美術は、蒲団のような緩衝材に包まれながら、箱の中に入れられて収納される事が多いです。

この章でまず目に入るのは、箱だけが入った展示ケース。床に書かれている線を辿ると、中身にたどり着くという趣向です。

箱に美術品の価値を左右する事もある、箱に書かれた文字「箱書き」もあわせてお楽しみください。



第5章「はこはこする」展示風景


最後の第6章は「ざわざわする」。美術品だからといって「美しい」だけではありません。日本の美術には、さまざまな「心のざわめき」を受け止めてくれる懐の深さがあるのです。

《袋法師絵巻》は、サントリー美術館の秘宝とも言うべき作品。女主人の屋敷に侵入した好色な法師を、女性が袋に入れて隠しますが、隣に住む別の女性が袋に入ったままの法師と情を交わすことに…というストーリー。古い春画の絵巻物です。



《袋法師絵巻》(部分)江戸時代 17~18世紀


館蔵の至宝から珍品までさまざまな作品を揃え、「作品を見たい!」という気持ちを高めていく企画。

夏休み期間という事もあり、子ども連れでも楽しめそうな展覧会です。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年7月13日 ]

※会期中展示替えあり

《富士鷹茄子松竹梅模様筒描蒲団地》昭和時代 20世紀[展示期間:7/14~8/9]
《薩摩切子 紅色被筆筒》江戸時代 19世紀
《朱漆塗ガラス絵蓋付椀》江戸~明治時代 19世紀
国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》鎌倉時代 13世紀
(左から)《墨梅図(「棲鸞園画帖」のうち)》伊藤若冲 江戸時代 18世紀 / 《立てる裸婦》小出楢重 昭和元年(1926)
会場
サントリー美術館
会期
2021年7月14日(We)〜8月29日(Su)
会期終了
開館時間
10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
※7月21日(水)、22日(木・祝)、8月8日(日・祝)は20時まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
休館日
火曜日 ※8月24日は18時まで開館
住所
〒107-8643 東京都港区赤坂9-7-4  東京ミッドタウン ガレリア3F
電話 03-3479-8600
料金
一般 当日 ¥1,500
大学・高校生 当日 ¥1,000
中学生以下 無料
展覧会詳細 ざわつく日本美術 詳細情報
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